呪われた将棋
アメリカ大統領のケインの前にとある行商人が訪れた。
その行商人はロシアから来たと名乗った。
行商人は大きな将棋盤を背負い、ポーチを持っていた。
行商人はケインに一度頭を下げるとこう言い始める。
「世にも珍しい商品が手に入りましたので、アメリカ大統領であるケインさんのもとに届けようかと思いまして」
ケインは興味がある様子で答える。
「そうか。見せてみろ」
そういうと、行商人は、将棋盤を机の上に置き、ポーチから国旗が描かれた将棋の駒を出し始めた。
「将棋のルールはご存じで?」
「ああ、日本人の友達とやったことがある」
「この将棋の駒と板は不思議な力を持っており、勝負すると願い事が叶うと言われています」
「ほう。すごいなそれは。いくらだ?」
「ざっと10万ドルほどでしょう」
「そうか。ならば買おう」
ケインは、行商人に10万ドルの小切手を手渡す。
「毎度ありがとうございます。試しに私と勝負してみますか?」
「おう。やろう」
「あなたはアメリカの国旗の方で、私は中国の国旗の方をやらせてもらいますね」
行商人は手早くコマを並べていく。
中国や、ロシアが複数枚あったり、疑問に思うことも多い。
コマの配置も距離が近すぎることもあれば遠すぎることもある。
「これで本当に合っているのか?そちらの方がコマが少ないように見えるのだが?」
「こういうものなのです。ささっ。はじめましょう」
「了解した」
「まず私から。北朝鮮を動かして、南朝鮮をとらせていただきます」
「じゃあ私はポーランドでロシアを一枚取らせてもらう」
勝負は淡々と進んでいく。
日本やドイツ、フランスなどの駒がなくなり、ついには、アメリカとイギリスとロシアと中国だけが残った。
「なかなか難しいですな。こちらのゲームは」
「そうでしょう。では私が。中国でアメリカの駒を一枚取ります」
「ぐっ。そう来たか。これは詰みだな。負けました」
「わかりました。では私の勝ちということで」
そう言って行商人は中国の駒でアメリカの駒を取る。
「悔しいな。もう一回やらないか?」
ケインはそう行商人に提案する。
「すみません。そろそろ次の商売に行かないといけないのです。それにこのゲームは一度しかできないので、どちらにしろもうできません」
「それはどういうことだ?」
ケインは行商人に尋ねる。
「いずれわかると思います。それでは失礼します」
そう言って行商人は去っていく。
「面白かったな。あの将棋。今度日本の佐藤首相とやってみようかな」
ケインは伸びをしたあと、
「外の空気を吸いたい」
そう言ってホワイトハウスの外に出る。
しかし、ケインを待っていたのはいつもの見慣れた景色ではなかった。
そこには、荒れ果てたワシントンの街が広がっていた。何かが焦げた匂いが漂い、戦闘機の轟音が轟く。
ケインは唖然とする。まるで何が起こったのか、わからない様子で。
後ろを振り向くと視界の片隅でホワイトハウスに掲げられた中華人民共和国の国旗が優雅にゆらゆらと揺れるのが見えたのだった。