死体掃除屋。
南沢寺が崩壊する、少し前……。
ようこそ、【特別編】の南沢寺へ。
「ご、ごめんなっ、んぎゃぁっ!」
閑静な住宅街。
気持ちのいい悲鳴が夜空に響く。
「お願い……お願いしまっ、あぁっ!」
僕の股の下には、男性が仰向けで倒れている。
僕はサバイバルナイフで男性の右腕に切り傷を入れる。
「あぁあぁぁっ!」
気持ちいい。気持ちがいい。
今度は左太腿に切り傷を。
「んぎゃあっ!」
ちょっとずつ、ちょっとずつ身体を切り刻む。一気には逝かせない。溜めて溜めて溜めて、限界を越えた先に、気持ちのいい死が待っている。
「も、目的は? ……な、何が望みだ!」
僕は首を傾けた。
お前には何も望んでいない。ただ、あの人に認めてもらう為。あの人に近付く為。あの人のように、この街を恐怖で脅かす為。
「な、何でもする! だ、だから、もう、止めっ、ぎゃぁっ!」
悲鳴が、気持ちいい。
動かなくなった男性を見下ろす。
身体中の傷。歪んだ顔。少しずつ切り刻んだ感覚。
思い出しただけで得体の知れない興奮が身体中を駆け巡る。
あぁ、また彼に近付けた。
「これはまた綺麗な殺し方だね」
声だけで分かる。
爽やかさの中に混ざった、悪意のある声。
彼だ。
振り返ると、目と口の部分に穴が空いただけの、真っ黒な仮面を被った彼がいた。
「うん。悪くない。悪くない殺し方だね」
嬉しい。褒められた。嬉しい。
「今度は、巨乳の女性で試してみてよ」
そうしよう。彼が言うんだから、そうすべきなんだ。
僕は頷いた。
彼に出会って、僕は変わった。自分のこの欲望を肯定出来るようになった。この街で生き易くなった。
「じゃあ、楽しみにしてるね」
彼の仮面の下の顔を想像する。傷だらけで、ぐちゃぐちゃの顔。悪意と殺意と性欲に塗れた、完璧な悪。
「あ……来たよ」
彼の視線の先を追う。
死体の前に、あいつが立っていた。
「ぐへへ、今日もいい夜っすね」
気味の悪い笑い方、ボロボロの小汚いコート、蟹股。
「今日もいい死体っすね」
不気味という言葉が似合うそいつは……。
「死体掃除屋、ヨシちゃんにお任せくだせぇ」
死体掃除屋、ヨシちゃんって誰……?
ヨシちゃん「ぐへへ」
【登場人物】
僕
人をサバイバルナイフで切り刻むことに快感を覚える。黒い仮面の男を崇拝している。
彼
黒い仮面を被っている。素顔は傷だらけらしい……。
ヨシちゃん
ここの街ではない、Nを中心に活躍する死体掃除屋。ボロボロの小汚いコートを着て、蟹股で、常に気味の悪い笑みを浮かべている。笑い方は、「ぐへへ」。他作品、『路地裏セブン』からのゲスト出演。ヨシちゃんが主人公のスピンオフ作品、『死体掃除屋 ヨシちゃん』も宜しくです!