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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺での惰性的な日々はエモい。
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仲よくなれそうだよ。

ようこそ、南沢寺へ。

僕の家族、雨沢家は複雑だ。

僕が家族だと思っているのは、血の繋がっていないお姉ちゃんだけ。

両親の離婚後、僕は父親についていくことになった。父親はすぐに再婚。新しい家族とここ、南沢寺に引っ越して来た。新しい母親について来たのが今のお姉ちゃんだった。当時、小学2年生だった僕にとって、中学2年生のお姉ちゃんは大人だった。


「湊、お母さん達、出てっちゃった。2人で頑張りなさいって。でも、仕送りはしてくれるって」


僕が小学5年生、お姉ちゃんが高校2年生の時、両親は僕達を置いて出て行った。

僕が1人で「南沢寺ストリート」にある雑貨屋「マッシュ」に行っている時らしい。その時お姉ちゃんは家にいて、優しいから、優し過ぎるから、「うん。頑張るね」って両親に言ったらしい。

それからは2人の生活になった。仕送りもあったし、学費も家賃も光熱費も水道代も、生活に関わるもの全て払ってくれたし、特に何も文句はなかった。むしろ、お姉ちゃんとの2人暮らしはワクワクした。深夜に行ったコンビニ、休日に行ったカラオケ、レンタルビデオ店で大量に借りて眠らずに観た数々の映画。どれも何だかいけないことをしているみたいで、それでいて、特別感があって、気が付いたら僕は、お姉ちゃんに対して、姉以上の感情が湧き始めていた。そんな時だった。

とても寒い冬の夜、そいつは突然やって来た。


「どうもー、初めまして」


中学3年生だった為、僕はリビングで受験勉強をしていた。

聞き覚えのない男性の声に驚いて振り向くと、リビングのドアの前にはやはり、見知らぬ男性がいた。右隣にいるお姉ちゃんが彼を紹介した。


「彼は、イロセミナミ君。今日から一緒に住むことになったの。宜しくね」


一緒に、住む?


「宜しく、ミナト君。お姉ちゃんから名前、聞いたよ」


黒髪マッシュに甘い声。

誰なんだ、お姉ちゃんの何なんだお前は。


「ミナミさんは、僕達の何?」


ミナミさんは、にやっ、と笑みを浮かべた。


「水帆の、元彼だよ」


水帆はお姉ちゃんの名前だ。元彼? お姉ちゃんには彼氏がいたのか? こんなに近くにいたのに、何にも知らなかった。悔しくて悲しかった。でも、これだけは……これだけは、言わせてもらう。


「じゃあ、もう、他人ですよそれ」

「ちょっと、湊」


と、宥めるように言うお姉ちゃん。

そう。元彼氏は元彼氏。彼氏とは大違い。終わった話だ。終わった話。ズキズキと胸を痛める自分に心の中で言い聞かせた。

ミナミさんは挑戦的な目で微笑んだ。


「ミナト君こそ、水帆の何なのさ」


今更何を。お姉ちゃんから聞いている筈だ。

僕は立ち上がり、ミナミさんの前に立って彼を見上げた。

正真正銘の、


「弟です」


ミナミさんは、ふっ、と鼻で笑った。


「義理のでしょ? 血の繋がりなんてない、他人じゃないか」


こいつ、まじで何なんだ? とても面白いじゃないか。


「はははははは」

「はははははは」


僕とミナミさんは同時に、お互いに顔を見合わせて笑った。


「こいつ、笑ってるの? 顔が死んでる」


突然笑うのを止め、ミナミさんがお姉ちゃんに尋ねた。

お姉ちゃんのポニーテールが縦に揺れた。


「う、うん……いっつも無表情だから、こんなに笑えるなんて……。びっくりしてる、私」


どうやら、こいつは出て行きそうにない。でも、これ以上グダグダ言って、お姉ちゃんに迷惑をかけたくもない。

だから、これだけは言わせてもらう。


「ミナミさんに部屋はないですよ。リビングのソファーで寝てください」


お姉ちゃんの部屋では絶対に寝かせない。

ミナミさんは甘く不気味に微笑んだ。僕から一切目を逸らさなかった。


「水帆。面白いね、弟君。仲よくなれそうだよ」


僕も右側の口角を持ち上げた。

それは、こっちの台詞だ。

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