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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺にはよく「塵」が流れ着く。
35/51

「忘れられない女」。

屑男、南君の日常。

久し振りのキャラも登場します。


ようこそ、摩訶不思議な南沢寺へ。

「ただいまー」


玄関のドアを開け、家に入る。靴を脱ぎ、リビングへ。ソファーに座って、テレビを眺める2つの影。同時に2つの顔が振り向く。


「あ、おかえり。南君」


優しい笑みで俺を迎えてくれたのは、水帆。社会人。俺の元カノ。


「……」


殺気に満ちた目で俺を迎えてくれたのは、湊君。高校1年生。水帆の弟。義理のだけど。


「今日も稽古疲れたよー」


ソファーの右側にいる水帆が左側、湊君がいる方に詰めてくれた。俺はその、空いたスペースに座る。


「お疲れ様。公演までもうすぐだもんね」


俺はこの2人と同居している。


「はぁー、水帆の優しさ、胸に染みるぅー」

「南さん、テレビ聴こえないんで静かにお願いします」

「はぁー、湊君の優しさも胸に染みるぅー」

「……ちっ」


本当にカオスな家だと思う。再婚した両親に置き去りにされた姉弟。湊君の義理の姉、水帆。多分水帆が好きである義理の弟、湊君。水帆の元カレ、俺。だから、湊君にとって俺が邪魔なのは納得出来る。でも、俺は絶対にこの家から出ていかない。だって、せっかく手に入れた居場所なんだ。そう簡単に手放すわけにはいかない。もう、路頭に迷いたくない。俺を拾ってくれた水帆にはまじで感謝。

そして、


「……やっぱ、いるなぁ」


俺は小さな声で呟いた。


「どうしたの? 南君」


水帆が心配そうな目で覗き込んできた。こういう、お姉さん系な優しさで男共は水帆を好きになるんだと思う。


「んーん、何でもない」

「南さん、うるさいです」

「はいはい、ごめんごめん」


湊君の嫉妬を華麗に避ける。

ここから見て、天井の左端。角のところに「奴」はいた。……いや、「彼女」と言うべきか?

水帆の首から上が、その角にぶら下がっているのだ。逆さで。しかし、髪は逆立っていない。ポニーテールは天井を向き、重力に逆らっている。額には、横書きされた黒い文字が書かれているのだが、前髪で隠れてよく見えない。「彼女」はじっと逆さのまま俺を見ている。

俺には元からこういう「変なもの」を見える力がある。「彼等」が一体何なのかは分からない。だが、南沢寺によくやって来ることだけは知っている。下北沢や高円寺、阿佐ヶ谷、三軒茶屋等、他の似たような街にも「彼等」がいないこともないが、南沢寺だけはその数が異常に多い。比べ物にならないぐらい。勿論、理由は分からない。


「南君、そんなに疲れたの?」

「え?」


水帆に話しかけられ、我に返る。


「さっきからボッーとしてるよ」


どうも変な感覚になる。天井から無表情で「水帆の首から上」に見つめられ、左隣から心配そうに水帆に話しかけられる。


「早く寝たらどうですか?」

「湊君、それナイスアイディア」


「彼女」は、俺がこの家に住み始めた時からずっといる。いや、もしかしたら、俺が来る前からずっといるのかもしれない。天井を見ると、どの部屋にも「彼女」はいる。じっと、無表情で逆さのまま俺を見つめている。


「これ観終わったら風呂入って寝ようかなー」

「そうしなそうしな」


ま、俺の寝る場所、このソファーなんですけど。湊君が水帆の部屋で俺が寝るのを許してくれなかった。当然、湊君の部屋でも。だから、リビングが俺にとっての寝室なのだ。

やっぱり、「彼女」の視線が気になる。もう、慣れた筈なのに。

多分、あいつの所為だ。アッシュグレー色に染まった髪のあいつ。偶然出会ったあいつは「変なもの」とコミュニケーションが取れた。更に彼は南沢寺から「変なもの」を追い出した。あいつの所為で最近、「変なもの」を見ると、かなり意識してしまう。


「ふぁーあ……もう眠くなってきちゃった」


欠伸をして、水帆の両目に涙が溜まった。


「まだ、22時だよ。お姉ちゃん」

「お姉ちゃんはね、健康的なの」

「……あっそ」

「湊、冷たーい」


水帆と湊君が立ち上がった。


「おやすみー」

「じゃあ」


と言って、2人はそれぞれの部屋へ入っていく。水帆は元々両親の寝室だった部屋を自分の部屋として使っているらしい。

リビングで、俺と「彼女」の2人っきりになった。

ふと、左端の角を見ると「彼女」はいなくなっていた。


「……あれ」


急にいなくなったら、いなくなったで何だか不安になる。

風呂入るか。そう思い、テレビを切る為にリモコンを取ろうと、先程まで水帆が座っていた場所に目を向けた。

「彼女」が俺を見つめていた。今度は逆さではなく、普通の向きで。ソファーで「水帆の首から上」がこちらを見上げていた。前髪が少し乱れていた。俺は目を凝らした。髪で隠れた額を凝視する。


「……『忘れられない女』?」


そう「彼女」の額には、黒文字で横書きされていた。

「水帆の首から上」は、ずっと俺を見つめていた。

南「湊君、久し振りー」

湊「ちっ」

南「第3章は、俺が主人公なんだー」

湊「……」

南「あ、ねぇ、嫉妬? 最終章で主人公になれなかったことに対する嫉妬? ねぇ、ねぇ」

湊「……何でこいつが主人公なんだよ、糞作者」

濃紺色。「ひぃぃ……」

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