また会おーぜ。
ダークヒーローの誕生は、新たな悪を呼び寄せる。
ようこそ、血生臭い南沢寺へ。
童顔、巨乳。
この2つの特徴に執着するようになった。
それ等の要素を併せ持った女性を見ると我慢が出来なくなった。
「あの夜」以来、僕は高校生ではなくなった。だから、時間は数え切れない程あった。それが原因なのか余計に「趣味」に没頭した。新たに出来た「趣味」にどっぷりと浸かり、溺れ、抜けられなくなった。
───生き地獄を味わえ。
朦朧とした意識の中で聞こえた奴の低い声が頭の中で再生される。
───2度と、表社会に出られねぇよーに。
自分の顔を鏡で見た時、顔を触れた時、刃物を見た時、触った時、僕に纏わり付くように。耳の奥にこびり付いて離れなかった。
その声を唯一忘れられるのが、「趣味」を行なっている時だった。「趣味」にはサバイバルナイフを使うのだが、その時だけは刃物を触っても大丈夫だった。
「んーー……」
そろそろ目覚める頃だろう。
椅子に座った女はゆっくりと首を横に振り、目を半分開ける。脳と視界が冴え始め、ここを「知らない場所」だと認識する。そして、目の前に立つ僕を、「ここへ連れてきた犯人」だと判断する。
「……何? 誰?」
女は恐怖に顔を歪めた。
誰、か。
僕は北沢祥哉。元高校1年生。
「おはよう」
さぁ、「趣味」の始まりだ。
僕は1歩、右足を前に出した。
「嫌! 来ないで!」
来ないで、だと? それは僕がこんな、歪な仮面を付けているからか?
僕は無視して、椅子に座っている女の太腿の上に、股を開いて座った。もう僕の股間はギンギンだった。
「嫌! 嫌! 止めてっ、止めてください!」
そんなんで止める馬鹿はいないよ?
僕は右手に持ったサバイバルナイフを、女の顔の前に持ってきた。
「じゃーん」
「……な、何が目的、なんですか?」
女は涙目でサバイバルナイフの刃を見つめる。
「……目的?」
目的かぁ。これは「趣味」だよ? 君は「趣味」に目的を求める意識高い系?
そう、目的なんてない。
「好きだからだよ」
君みたいに童顔で巨乳の女の顔を傷付けるのが。
「あの夜」。「メリケンサックの悪魔」に顔をぐちゃぐちゃにされた「あの夜」以来、人の顔を傷付けることに計り知れない程の快感を覚えた。相手が童顔で巨乳の女性なら尚更だった。クラスメイトだった千代ちゃんが頭から離れなかった。手に入らなかった彼女を想像しながら、見知らぬ女の顔をサバイバルナイフで傷付けると興奮して我慢汁がダラダラと止まらなかった。
「す、好きだから!? そ、それってどういう……」
必死に刃物から逃げようと顔を動かす女。哀れで笑える。君は椅子に拘束されているんだよ。後ろ手に拘束用のロープで縛り、更に椅子のそれぞれの脚にも君の脚を……。
「わ、私まだ……誰ともシてないからぁ、お願い離してぇ。好きな人と、したいの……お願い、します……」
イラッとした。勘違いするなよ。
僕は立ち上がった。
僕がしたいのは……
「こういうことだぁっ!」
サバイバルナイフを女の顔の前で一振りした。
「きゃぁっ!」
女の幼い顔が赤い液体で汚れる。右頬が横にぱっくりと裂けた。ドバドバと鮮血が流れる。
「痛いぃ、痛いよぉぉおおおぉっ!」
泣き噦る女。そうそうこの感じ。これこれ。自分がされたように童顔巨乳女の顔を傷付ける。女は痛みと恐怖に顔を歪ませる。最高だ。
今までも数々の女をこの地下室に監禁し、拷問後、殺害していたことが「あの夜」、警察に捕まってバレた。だが、北沢家の持つ金と権力で何とか解放してもらった。南沢寺の裏社会を牛耳っているのは、北沢家だ。それぐらい何とかなる。
「や、止めっ、ぎゃっ!」
「あの夜」以降もこの地下室を使い続けた。「童顔巨乳女の顔を傷付ける」という要素をプラスした「趣味」の為に。
「ご、ごめんなさっ、んぎぃっ! ああぁっ!」
「拷問サークル」。南沢寺の闇の中、ひっそりと存在する会員制の殺人クラブ。殺したい相手、もしくは条件にあった人を登録。期日までに捕まえ、このビルのいくつかある地下室の1つに監禁、拘束してもらう。そこで自由に相手を殺す。あとは、地下室の使用時間、拘束対象者の捕縛代、死体の処理代を払えばいいだけ。金持ちに人気の、裏社会の遊び方だ。裏社会界では、「拷問サークル」はかなり有名だ。
「痛いか? 痛いか? なぁ? 痛いのぉ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
だが、今回の事件であの地下室は外部の人間にバレてしまった。でも、大丈夫。関係した警察官は全員殺した。部下に頼んで。あと、地下室に関する資料は全て消してもらった。北沢家の金と権力さえあれば何でも出来る。
気が付いたら、椅子に拘束された女はぐったりとしていた。ぐちゃぐちゃになった顔を下に向け、弱々しく、肩で息をしている。ポタポタと顔から血がズボンや床に滴り落ちる。
「いい。いいねぇ」
僕は左手で女の髪を鷲掴みにし、上に引っ張った。
「ぐえっ」
蛙のような潰れた声に思わず笑ってしまった。ギャグセンスあるんだねぇ。
「いい? 見てて?」
赤黒くデコボコになった女の顔。瞼と思しき、2つの横線がゆっくりと少し開いた。
僕はサバイバルナイフを持った右手で付けていた仮面を外し、床に投げ捨てた。
女の半目が更に開いた。
「びっくりした? ねぇ、びっくりした? 君と同じ。君の顔も、僕と同じだよ」
ふるふると小さく、力なく首を横に振る女。女の両目に涙が溜まる。
「……ひや……い、嫌……」
ここで行われる殺害は、天井に取り付けられた監視カメラで全て録画されている。その殺害映像、所謂、スナッフビデオは会員の顔にモザイクをかけて、ネットで取引、販売される。勿論、奥の奥の奥まで潜らないと辿り着けないダーク・ウェブで。そこで得た収益の2割を、次ここを使用する時の代金から差し引くことが出来る。まぁ、金持ちの僕にはどうでもいい話だが。そういう話ではなく、なかなかに僕の動画、「童顔巨乳女の顔裂き」シリーズは人気なのだ。今ではダーク・ウェブで高値に取引されている。続編を求める声が多いらしい。他人から評価されるとやる気が出る。それも僕が「趣味」に没頭する理由の1つなのかもしれない。そう考えると、「趣味」の目的は、これか。あったわ。
「僕も痛かったんだよぉ。何度も何度も……痛くて、痛くてしょうがなかったんだよぉ」
「メリケンサックの悪魔」の、濃紺色のメリケンサック。それにはある特徴がある。人を殴る部分に、横に伸びるように刃が付いている。奴は、その刃を何度もゆっくりと僕の顔の至るところに押し当てた。僕の顔はぐちゃぐちゃだ。爽やかな顔は大量の傷で一気に不気味になった。モンスターに。
───2度と、表社会に出られねぇよーに。
あいつの願いはこれだ。僕の顔をモンスターのようにして堂々と南沢寺を歩けないようにすること。2度と人前に現れられないように。死ぬより辛い、生き地獄を……。
味わわせたつもりなんだろうなぁ。
「ふんっ!!!」
ベチョ。
「ん、ぐが……」
もう、女には殆ど力が残っていないようだった。
僕は表社会の人間じゃない。裏社会の人間だ。知識を広げる為に表社会を生きてただけだ。だから、おまけがなくなっただけ。生きる場所が元いた裏社会になっただけ。痛くも痒くもない。むしろ、この「趣味」が楽しくてしょうがないんだ。いずれ、千代ちゃんにも出会えるかもしれないし。
「……あぁあ……千代、ちゃん……」
あぁっ、あああぁぁあああぁぁっ、会いたい! 会いたい会いたい会いたい!!!
「千代っ、ちゃぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁぁああああぁぁあああぁぁああああぁぁああああぁぁぁぁああぁぁんっ!」
サバイバルナイフを女の首元の左側に突き刺した。一気にサバイバルナイフを引き抜く。
ブシャァアァァァァァァァァアアァァァッ!
傷口から血が勢いよく噴き出した。
とても綺麗だった。目が離せない程に。
碧夜……いや、「メリケンサックの悪魔」。お前は今どこで何をしている? 聞いたよ。お前も僕と同じ、闇の住人になったって。南沢寺の影に身を潜めて、ひっそりと生きる。お前は南沢寺の夜がよく似合う。濃紺色に染まったお前はとても危険で、魅力的だ。
「……会いたいなぁ」
今の僕をお前に見せてやりたい。僕は今も生きている。楽しく、人を殺して、裏社会を堂々と生きている。
殺人鬼と制裁者。闇と闇。正反対のように見えて、僕達は似た者同士だ。きっとまた、僕達は巡り会う。悪の神が僕達を引き合わせる。だからそれまで、死なずに生きろよ。
「また会おーぜ」
第2章「南沢寺の夜は屑の排除にちょうどいい。」、完結です。
南沢寺の闇はまだ続きますが、次回から新章です。
日常、闇、その次は……?
危ないだけが、南沢寺じゃない。
お楽しみに。
【第2章の登場人物】
綿矢承哉
前半の主人公。南沢寺高校。1年1組。出席番号38番。千代からは「ショウ君」と呼ばれている。少し目付きが悪く無愛想な表情。コミュ症。母親が「メリケンサックの悪魔」だった。
碧夜
後半の主人公。南沢寺高校。1年1組。まさかの承哉達とクラスメイトだった。三白眼。態度と口調と目付きが悪い。この頃の髪色はアッシュブルーではなく、黒。高校生の時の渾名は「南沢寺高校の悪魔」。承哉にメリケンサックを貰い、南沢寺を暴力で悪から救う「メリケンサックの悪魔」になった。
北沢祥哉
南沢寺高校。1年1組。出席番号7番。高身長で爽やかな雰囲気。千代を服従させたいが為、千代をストーキングした。「メリケンサックの悪魔」と戦い、警察に捕まり、高校を中退。顔がぐちゃぐちゃになった。それからは裏社会だけで生きるようになり、「拷問サークル」で「趣味」に集中する。小学4年生の時、承哉の母親を殺した。
相沢千代
南沢寺高校。1年1組。出席番号1番。童顔で低身長とは反比例して巨乳。左目の下に黒子。北沢にストーキングされていた。
澄人
南沢寺高校。1年1組。お世話焼き。ツッコミ役。碧夜の親友。
かすみ
南沢寺高校。1年1組。常に死んだ目をしている。無感情な喋り方。行き過ぎたツンデレで、もはやツンの要素しかない。碧夜の親友。
「ガスマスク男子高生」
南沢寺高校。2年生。黒いガスマスクを被り、南沢寺を守る正義のヒーロー。
龍太郎
南沢寺高校。2年生。不良グループのリーダー。暴力を好む。
弘一
南沢寺高校。2年生。不良グループの子分。龍太郎と同じく、暴力を好む。
孝介
南沢寺高校。2年生。不良グループの子分。龍太郎と弘一の悪行を後ろで笑って見ている。
滝沢先生
南沢寺高校の養護教諭。色白で美人で男子生徒にとても人気がある。白衣がとても似合っている。
藤山先生
南沢寺高校の英語教師。癖っ毛なのか傘のように広がった髪。ごわごわしていてかなり固そう。金縁の眼鏡。面倒臭い性格。
中条真里佳
南沢寺在住。南沢寺に強い、フリーの裏モノ系ライター。童顔で巨乳。強気で上から目線。北沢に見知らぬ部屋で拷問された挙句、殺される。




