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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺の夜は屑の排除にちょうどいい。
23/51

ぐちゃぐちゃだよ。

第1章「南沢寺での日々は惰性的でエモい。」では、湊、澄人、承哉、また、彼等の周りの人々を通して、南沢寺での日常をお見せしました。


第2章では、もっともっと深い、闇の部分をお楽しみください。

エモいだけが、南沢寺じゃない。


第2章「南沢寺の夜は屑の排除にちょうどいい。」、始まります。


ようこそ、血生臭い南沢寺へ。

薄暗い殺風景な部屋。

全面コンクリートの打ちっ放しで人の温もりなど一切感じない。

部屋にあるのは鉄で出来た冷たい椅子1つと、布団の敷いていないベッド1つ。天井からぶら下がる裸電球1つのみだ。


「ん……んー……」


おっと忘れていた。もう1つ……。


「……ここは」


もう1人、と言うべきか。


「えっ……あなたは……あ、あなたは誰! ここは、ここはどこ! 離してよ!」


ピーピーうるさい雌豚だ。

僕は躊躇なく彼女の右頬に平手打ちを1発食らわした。


「んぎゃっ!」


女の叫び声と、パンッという肉が肉を打つ、気持ちのいい音が部屋に響く。

女は泣き声を上げて必死にその場から逃げようとしているが、はっきり言って無理だ。ここから出られずにお前は終わる。

女は椅子にしっかりと拘束してある。両手は後ろ手に、両脚は椅子の前脚に、ガッチリと拘束用の黒いロープで縛ってある。


「あぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁあぁぁっ! 誰かぁぁぁぁあああぁぁぁぁああぁっ! 助けてぇぇぇぇえええぇぇえぇっ!」


耳障りだ。まだ、何も始まってもいない。それにいくら叫んだって無駄だ。ここは秘密裏に入手した、どこかの地下室。声が地上に届く事はない。

取り敢えず、黙らすか。

僕は右手に持っているサバイバルナイフを、女に無言で見せつけた。

物分かりがいい女でよかった。声を発するどころか、両目にいっぱい涙を溜めて小刻みに震え始めた。


「……ご、ごめんなさい……お願いします……何でもしますから、言うこと……き、聞きます、ますから……殺、殺さない、でぇ……」


今度は懇願か。豊かな感情で何より。


「だ、誰にも言わないから……私をここから……」

「うん、無理」


僕はサバイバルナイフを一振りした。

肉が切れる感覚。

飛び散る血に、ぶしゃ、という効果音を付けたい。


「いだぁぁああああぁぁぁああぁぁあぃっ!」


絶叫する女。そうそう、こんな声が聞きたかったんだよ。恐怖からではなく、痛みからの、耳を劈くような叫び。

女の左頬には斜めに赤い線が入り、そこから、だらっーと血が流れていた。


「あぁぁああぁぁあああぁっ!」

「なぁ、なぁ、なぁ、誰にも言わないって言ったよなぁ。嘘はよくないよぉぉおぉっ!」


僕は長方形の小さな紙を女に見せた。


「フリータイターの中条なかじょう、真里佳さん?」


真里佳が気絶している間に、上着のポケットから見付けた彼女の名刺だ。


「記事にするんだろぉ? なぁ。僕の気持ちなんか微塵も分からないのに、僕のことを知ったように記事を書くんだ。どいつもこいも僕のことを……何も知らないのによぉっ!」

「私は書かないわ!」

「うるさい!!!」


僕は再度サバイバルナイフを振るった。


「んぎゃあっ!」


真里佳が叫ぶ。

今度は真里佳のおでこから血がダラダラと流れ始めた。


「いだいぃっ、いだいよぉぉぉっ!」


情けない。実に情けないなぁ。

真里佳の顔は赤黒い血と涙と涎でぐちゃぐちゃになっていた。


「いだいぃ、もう、止めてぇぇっ!」

「なぁ、痛いかよぉっ! なぁ! なぁ!」

「痛いよ、痛い痛い痛い! あぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁあああぁっ!」

「これ見ろよ!!!」


僕は付けていた仮面を外し、床に投げた。


「ひぃっ!」


と真里佳は目を見開いて驚き、恐怖に顔を歪ませた。


「痛かったよなぁ。俺も痛かったよぉ。痛くて痛くて仕方がなかったよぉ」


僕は真里佳の両胸を両手で鷲掴みにした。右手に持ったサバイバルナイフの刃が彼女の顎に当たり、少し肌を切った。


「何度も何度も……奴は止めなかった。僕を痛め付けた。何度も、何度も何度も!」


大きな両胸を揉みしだく。


「見えるだろぉ? この顔中の……痛かったなぁ。痛かった。こうなってからの、周りからの目も痛かった。生き辛くて生き辛くて仕方がなかったよぉっ!」


あぁっ! ブラジャーが邪魔だ!


「これがお前の末路だよ!!!」

「んぎぃ、あぁっ! あぁあぁっ!」


真里佳の右瞼に、縦に赤い線を入れた。目玉までしっかり切り目を入れた。


「もう、嫌ぁあああぁぁああぁぁっ!」


真里佳は両目を瞑り、顔を下に向けた。

抵抗のつもりか。

僕は左手で真里佳の髪を鷲掴みにすると、強引に顔を上げさせた。

サバイバルナイフの刃を口元に押し当てる。


「笑えよ、なぁ、笑えよ」

「んっ、んんんっ!」


号泣をする真里佳。


「笑わせてやろうか! なぁ、口を開けろ! 開けろよ!」


サバイバルナイフを真里佳の、左側の口角に当て、一気に押し上げた。


「んあああぁあああぁぁぁあああぁぁっ!」

「はっはははははははははぁっ!」


まるで左側の口角を吊り上げて笑っているようになった。ダラダラと赤黒い液体が傷口から流れ、左頬の傷口から下を汚した。


「ははははははははは! 面白いなぁっ! はははははははっ!」


お腹を抱えて大笑いした。強気で上から目線の性格に似合わず、幼い顔付き。あんなに可愛かった顔が、今ではぐちゃぐちゃだ。ぐちゃぐちゃだよ。僕がぐちゃぐちゃにした。この僕が! 童顔を! ぐちゃぐちゃに!


「……お前なんか……」


俯いていた真里佳がポツリと呟いた。


「……あ?」


僕は笑うのを止め、真里佳を見下ろした。


「人を傷付けて笑う奴なんか……」

「笑う奴なんか……何だよ」


イライラするなぁ。せっかくこっちが楽しんでんのによぉ。


「笑う奴なんか!」


決めた。こいつは吐かせるまで痛み付ける。

真里佳が顔を上げ、無傷の左目で僕を睨み付けた。


「『南沢寺X』が暗殺してくれ、んぎゃっ!」


気が付くと、真里佳の左目にサバイバルナイフを深く突き刺していた。真里佳はサバイバルナイフを左目に刺したまま、ゆっくり顔を下げ、動かなくなった。


「……ちっ」


カッとなってついつい殺してしまった。

何なんだよ、糞。楽しんでたのに。

僕は不満を抱きながらも左手でフィンガースナップをした。

パチンッ、と気持ちのいい音が部屋に響く。


「……終わったよ、後は宜しく」


鉄製のドアが開き、4人のスーツ姿の男性が入ってきた。全員、顔の中心に「拷」と赤色で記された、黒色の覆面を被っている。


「……楽しんで頂けましたか?」


1番長身のヒョロっとした男性が尋ねてきた。


「……まぁまぁね」


監視カメラで観てるんだから分かるだろうよ。

僕は苛立ちと不完全燃焼感を覚えながら、サバイバルナイフを抜き、部屋を後にした。

「南沢寺X」……どこかで聞いたことがある。

南沢寺の闇に堕ちていく……。

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