ぐちゃぐちゃだよ。
第1章「南沢寺での日々は惰性的でエモい。」では、湊、澄人、承哉、また、彼等の周りの人々を通して、南沢寺での日常をお見せしました。
第2章では、もっともっと深い、闇の部分をお楽しみください。
エモいだけが、南沢寺じゃない。
第2章「南沢寺の夜は屑の排除にちょうどいい。」、始まります。
ようこそ、血生臭い南沢寺へ。
薄暗い殺風景な部屋。
全面コンクリートの打ちっ放しで人の温もりなど一切感じない。
部屋にあるのは鉄で出来た冷たい椅子1つと、布団の敷いていないベッド1つ。天井からぶら下がる裸電球1つのみだ。
「ん……んー……」
おっと忘れていた。もう1つ……。
「……ここは」
もう1人、と言うべきか。
「えっ……あなたは……あ、あなたは誰! ここは、ここはどこ! 離してよ!」
ピーピーうるさい雌豚だ。
僕は躊躇なく彼女の右頬に平手打ちを1発食らわした。
「んぎゃっ!」
女の叫び声と、パンッという肉が肉を打つ、気持ちのいい音が部屋に響く。
女は泣き声を上げて必死にその場から逃げようとしているが、はっきり言って無理だ。ここから出られずにお前は終わる。
女は椅子にしっかりと拘束してある。両手は後ろ手に、両脚は椅子の前脚に、ガッチリと拘束用の黒いロープで縛ってある。
「あぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁあぁぁっ! 誰かぁぁぁぁあああぁぁぁぁああぁっ! 助けてぇぇぇぇえええぇぇえぇっ!」
耳障りだ。まだ、何も始まってもいない。それにいくら叫んだって無駄だ。ここは秘密裏に入手した、どこかの地下室。声が地上に届く事はない。
取り敢えず、黙らすか。
僕は右手に持っているサバイバルナイフを、女に無言で見せつけた。
物分かりがいい女でよかった。声を発するどころか、両目にいっぱい涙を溜めて小刻みに震え始めた。
「……ご、ごめんなさい……お願いします……何でもしますから、言うこと……き、聞きます、ますから……殺、殺さない、でぇ……」
今度は懇願か。豊かな感情で何より。
「だ、誰にも言わないから……私をここから……」
「うん、無理」
僕はサバイバルナイフを一振りした。
肉が切れる感覚。
飛び散る血に、ぶしゃ、という効果音を付けたい。
「いだぁぁああああぁぁぁああぁぁあぃっ!」
絶叫する女。そうそう、こんな声が聞きたかったんだよ。恐怖からではなく、痛みからの、耳を劈くような叫び。
女の左頬には斜めに赤い線が入り、そこから、だらっーと血が流れていた。
「あぁぁああぁぁあああぁっ!」
「なぁ、なぁ、なぁ、誰にも言わないって言ったよなぁ。嘘はよくないよぉぉおぉっ!」
僕は長方形の小さな紙を女に見せた。
「フリータイターの中条、真里佳さん?」
真里佳が気絶している間に、上着のポケットから見付けた彼女の名刺だ。
「記事にするんだろぉ? なぁ。僕の気持ちなんか微塵も分からないのに、僕のことを知ったように記事を書くんだ。どいつもこいも僕のことを……何も知らないのによぉっ!」
「私は書かないわ!」
「うるさい!!!」
僕は再度サバイバルナイフを振るった。
「んぎゃあっ!」
真里佳が叫ぶ。
今度は真里佳のおでこから血がダラダラと流れ始めた。
「いだいぃっ、いだいよぉぉぉっ!」
情けない。実に情けないなぁ。
真里佳の顔は赤黒い血と涙と涎でぐちゃぐちゃになっていた。
「いだいぃ、もう、止めてぇぇっ!」
「なぁ、痛いかよぉっ! なぁ! なぁ!」
「痛いよ、痛い痛い痛い! あぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁあああぁっ!」
「これ見ろよ!!!」
僕は付けていた仮面を外し、床に投げた。
「ひぃっ!」
と真里佳は目を見開いて驚き、恐怖に顔を歪ませた。
「痛かったよなぁ。俺も痛かったよぉ。痛くて痛くて仕方がなかったよぉ」
僕は真里佳の両胸を両手で鷲掴みにした。右手に持ったサバイバルナイフの刃が彼女の顎に当たり、少し肌を切った。
「何度も何度も……奴は止めなかった。僕を痛め付けた。何度も、何度も何度も!」
大きな両胸を揉みしだく。
「見えるだろぉ? この顔中の……痛かったなぁ。痛かった。こうなってからの、周りからの目も痛かった。生き辛くて生き辛くて仕方がなかったよぉっ!」
あぁっ! ブラジャーが邪魔だ!
「これがお前の末路だよ!!!」
「んぎぃ、あぁっ! あぁあぁっ!」
真里佳の右瞼に、縦に赤い線を入れた。目玉までしっかり切り目を入れた。
「もう、嫌ぁあああぁぁああぁぁっ!」
真里佳は両目を瞑り、顔を下に向けた。
抵抗のつもりか。
僕は左手で真里佳の髪を鷲掴みにすると、強引に顔を上げさせた。
サバイバルナイフの刃を口元に押し当てる。
「笑えよ、なぁ、笑えよ」
「んっ、んんんっ!」
号泣をする真里佳。
「笑わせてやろうか! なぁ、口を開けろ! 開けろよ!」
サバイバルナイフを真里佳の、左側の口角に当て、一気に押し上げた。
「んあああぁあああぁぁぁあああぁぁっ!」
「はっはははははははははぁっ!」
まるで左側の口角を吊り上げて笑っているようになった。ダラダラと赤黒い液体が傷口から流れ、左頬の傷口から下を汚した。
「ははははははははは! 面白いなぁっ! はははははははっ!」
お腹を抱えて大笑いした。強気で上から目線の性格に似合わず、幼い顔付き。あんなに可愛かった顔が、今ではぐちゃぐちゃだ。ぐちゃぐちゃだよ。僕がぐちゃぐちゃにした。この僕が! 童顔を! ぐちゃぐちゃに!
「……お前なんか……」
俯いていた真里佳がポツリと呟いた。
「……あ?」
僕は笑うのを止め、真里佳を見下ろした。
「人を傷付けて笑う奴なんか……」
「笑う奴なんか……何だよ」
イライラするなぁ。せっかくこっちが楽しんでんのによぉ。
「笑う奴なんか!」
決めた。こいつは吐かせるまで痛み付ける。
真里佳が顔を上げ、無傷の左目で僕を睨み付けた。
「『南沢寺X』が暗殺してくれ、んぎゃっ!」
気が付くと、真里佳の左目にサバイバルナイフを深く突き刺していた。真里佳はサバイバルナイフを左目に刺したまま、ゆっくり顔を下げ、動かなくなった。
「……ちっ」
カッとなってついつい殺してしまった。
何なんだよ、糞。楽しんでたのに。
僕は不満を抱きながらも左手でフィンガースナップをした。
パチンッ、と気持ちのいい音が部屋に響く。
「……終わったよ、後は宜しく」
鉄製のドアが開き、4人のスーツ姿の男性が入ってきた。全員、顔の中心に「拷」と赤色で記された、黒色の覆面を被っている。
「……楽しんで頂けましたか?」
1番長身のヒョロっとした男性が尋ねてきた。
「……まぁまぁね」
監視カメラで観てるんだから分かるだろうよ。
僕は苛立ちと不完全燃焼感を覚えながら、サバイバルナイフを抜き、部屋を後にした。
「南沢寺X」……どこかで聞いたことがある。
南沢寺の闇に堕ちていく……。