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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺での惰性的な日々はエモい。
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演劇部。

断然、千代ちゃん推しです。


ようこそ、南沢寺へ。

「演劇部、行ってみない?」

「……は?」


俺は驚いて、首を傾げた。

千代はぷっ、と可愛く吹き出した。


「え、ショウ君ってそんな目、真ん丸になるのぉ? いつも吊り目気味でちょっと怖いのにぃ」

「……そんな、面白いかよ」

「ごめん、ごめん、そんな、拗ねないでよぉ」

「頰を突くな。学校だよ、ここ」


入学してまだ2週間。帰りのホームルームが終わり、千代と廊下を歩いている時だった。


「……で、何で、演劇部?」

「ドラマとか見てると、こんな台詞言ってみたいなぁ、ってよく思うんだ。どうせ放課後帰るだけなら、演劇部に入って普段、日常生活では使わない台詞言ってみたいなぁ、とか思ったり」

「ふーん」


俺は千代と帰る、何でもない放課後が好きだったけどな、とは死んでも、口が裂けても、言えない。


「どう? ショウ君も行かない?」


まぁ、でも、千代が1人で演劇部に行ったら、千代を「彼女にしたい」とか考える糞みたいな野郎に捕まってしまう。守らなきゃ。俺も行かなきゃ。あー……面倒臭いなぁ。


「うーん、まぁ……じゃあ」

「本当!?」


千代は目をキラキラと輝かさせた。


「止めろよ、近いよ」


巨乳が当たるよ、可愛いな。


「ふふ」


と、千代が笑った。


「何だよ。また、目丸くなったかよ」

「違う違う」


千代は首を横に振った。ツインテールがゆらゆらと揺れる。

童顔だからか、千代はツインテールがよく似合う。髪の毛からシャンプーの甘い香り。ずっと嗅いでいたい。


「もしかしたら、ショウ君と恋人役やるかもしれないよねぇ」

「な!」


なぬぅっ!? こ、恋人!? そ、そうか……役を演じるってことは、別人になるってことか……悪くない。悪くないぞぉ! 千代の恋人役! 千代の彼氏役! 俺が! 千代の彼氏!


「行こうぜ!」

「お、どうしたの、ショウ君。急にノリノリになったねぇ」


あ、しまった。


「し、仕方ねぇなぁ……行ってやるよ」


俺は歩き始めた。


「ちょっと、ショウ君」


後ろから千代に呼び止められ、振り返る。


「……何だよ」

「今、ローファーでしょ。ロッカー戻って、上履きに履き替えないと。部室入れないよ」


そっか。


「はしゃぎ過ぎ」


止めろ。




「失礼しまぁーす」


「演劇部部室ですか?」と書かれた張り紙が貼られている教室のドアを千代が開ける。何で疑問形なんだよ。こっちが聞きたいよ、それ。

そこでは、15人程の男女が円を作り、内側を向いて立っていた。全員が一斉にこちらを向く。


「あぁ、千代ちゃん!」


円から飛び出してこちらに向かってきたのは、クラスメイトの爽やか気取り糞男子、北沢だった。

何故、貴様がここに!?

こいつは、千代にやけに馴れ馴れしい。しかも、こんな奴の名前、「祥哉」と俺の名前、「承哉」の読み方が「ショウヤ」で全く同じなのだ。最悪だ。

それに、こいつはこの前……。


「あれ……綿矢もいるの? よ」


北沢が千代の後ろにいる俺に気付き、右手を上げた。何だ、千代とのテンションの落差は。

俺も一応、右手を上げておく。


「……よ」

「何だい。知り合いかい?」


北沢の後ろから体格のいい男子が顔を覗かせた。日焼けした肌に真っ白な歯。体育会系な雰囲気の男子だが……。


「はい。こっちが相沢千代。こっちが綿矢承哉。どっちも僕のクラスメイトです」


「初めましてぇ、千代です。入部体験しに来ましたぁ。……ほら、ショウ君、挨拶」

「……どうも、承哉っす」

「俺は部長のアサダ。2年だ。宜しくな、チヨちゃん。ショウヤ……あれ、こっちもショウヤか」


北沢と俺の顔を交互に見るアサダ部長。


「彼のことはショウ君でいいですよ。私はいっつもそう呼んでます」

「は?」


俺は思わず、千代を見た。


「おぉ、いいな。ショウ君。宜しくな、ショウ君」


アサダ部長が俺の左肩をポンと軽く叩いた。


「ほら、ショウ君、返事は?」

「……どうもっす」

「宜しくー」

「宜しくなー」

「ちぃーす」

「うっす!」


部員全員が集まってきた。男子の視線が千代の胸にいくのが何となく分かった。

ちっ、何だこいつ等。

面白くねぇな、とか思っていると、


「ショウ君、でいいんだよね? ふふふ、可愛い渾名」


声のした方を向くと、色白の女子がいた。


「……そ、そうすか」


セミロングでキャラメル色の髪、垂れ目、やけに目立つ涙袋、大人びた顔付き、同じぐらいの身長、顎にある黒子、ジャージの萌え袖、綺麗な指、ふわふわした雰囲気……先輩か?


「ふふふー。宜しくね、ショウ君」


まるで、天使のような笑み。触ったら溶けてなくなってしまいそうな危うさ。


「私、タカヤママユ。マユ先輩って呼んでね? 2年生だよーふふふー」

「あ、ど、どうも。宜しくっす……マ、マユ先輩」


マユ先輩。

この人の恋人役でも楽しそうだなと思ってしまっている自分がいた。

横から誰かの視線を感じたような気がした。

承哉になって、千代ちゃんに毎日、子供扱いされたい。

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