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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺での惰性的な日々はエモい。
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「メリケンサックの悪魔」。

南沢寺には、黒い都市伝説が蔓延っている。


ようこそ、南沢寺へ。

人を痛め付けるのがどんなに楽しいか。

1度、この味を知ってしまったら抜け出せなくなる。

爽快、愉快、快感、愉悦、優越、興奮……。

喜びの感情を挙げ出したらきりがない。

ただ、善人は駄目だ。きちんとした悪人でないと。悪を排除しているという正当性。悪に対する嫌悪感の発散。

感覚でいうと、ゲームみたいな感じだ。あるだろ。何かを破壊する、敵を殺すゲーム。それが現実になっただけ。自分の力で悪人を倒す。最高だ。1回やったら病み付きになる。

今夜も街へ繰り出す。

濃紺色に染まった、南沢寺へ。

この街は下北沢や高円寺のようにサブカルで溢れていて、歌舞伎町のように危険も溢れている。


「あのっ、止めてっ、止めてください」


誰もいない路地裏。男が女の上に跨っていた。


「喜んでんだろ。なぁ、なぁなぁ、嫌がる自分に興奮してるんだろぉ……」


汚らしい男の声が嫌なぐらい夜の街に響く。


「嫌っ、違うっ、駄目ぇっ! んぐっ!」


男が叫ぶ女の口を塞いだ。


「大丈夫。大丈夫だよぉ。優しくするからねぇ。すぐ、気持ちよくなるよぉ。なぁ、気持ちよくなるよぉ」


俺はゆっくりと背後から近付く。

男は灰色のパーカーを着て、黒い覆面を被っていた。


「……屑が」


謂わば、俺のやっていることは、南沢寺の掃除。汚物の排除。

俺は勢いよく、覆面男の後頭部を殴った。


「いってぇぇえぇえぇぇぇっ!」


覆面男は後頭部を抑えて地面を転げ回った。突然の出来事に女はきょとんとした顔をしていたが、覆面男と俺の顔を交互に見ると、悲鳴を上げて夜の街に消え去っていった。

あんなブス女のどこがよかったんだよ。


「な、何っ、何すんだよぉ! なぁ!」


覆面男は涙声で蹲りながら叫んだ。


「……屑の排除。お前はこの街に、いらない」


俺は覆面男の脇腹を蹴った。


「うぐっ!」


痛みに呻き声を上げる。

あぁ、いい。もっとだ。もっと聴かせろ。悪が排除されていく音。堪らない。堪らない。


「ぐっ、ぐがっ、ぎょえ、ぎぎぎっ、がっ」


気が付くと、俺は覆面男に馬乗りになっていた。

覆面とパーカーがズタズタに裂けた覆面男が眼下にいた。裂けた場所から赤黒い液体がてかてかと光っているのが見える。


「はぁはぁはぁ……」


覆面男は必死になって呼吸をしていた。恐怖からか息が震えているのが分かった。

俺は右拳を振り上げた。


「ちょ、ちょっ、ちょい待ってぇっ!」


覆面男は両手を顔の前に広げて、涙声で叫んだ。

ちっ、何だ。


「お前は……お前はぁ、何なんだよぉ、お前はぁ、一体ぃ……」


俺? 俺が、誰か?

俺は首を傾けた。口元が緩む。


「俺は、『メリケンサックの悪魔』」


両手に付けた、濃紺色のメリケンサックを握り直す。


「それって女じゃないのかよぉ!」

「あ? んなわけねぇだろーが、屑」

「や、もう、止めてぇっ!」


俺は右拳を振り下ろした。

ねちゃ、という肉が裂ける感覚に俺は蕩けそうになる。

悪を、徹底的に排除する。

それが俺の使命だ。

今回の話で、澄人達の短編は一旦、終わりです。

不穏な雰囲気を放って終わりましたね。

これからどうなることやら。

では、彼等には、また会う日まで。




【11話〜18話までの登場人物】


澄人すみひと

主人公。南沢寺大学。1年生。お世話焼き。ツッコミ役。碧夜と南沢寺にあるアパートで同居している。かすみは碧夜のことが好きだと思っている。かすみと碧夜とは高校生の時からの付き合い。結構、鈍感。


かすみ

南沢寺大学。1年生。常に死んだ目をしている。無感情な喋り方。行き過ぎたツンデレで、もはやツンの要素しかない。南沢寺で実家暮らし。碧夜と気が合うが、実は澄人のことが好き。でも、素直になれない。澄人と碧夜とは高校生の時からの付き合い。


碧夜あおや

フリーター。大学には入っていない。暴力沙汰の事件で高校を中退。三白眼。態度と口調と目付きが悪い。髪の色は、アッシュブルー。澄人と南沢寺にあるアパートで同居している。過去に色々あり、暴力的でグレている。本当は友達思いで、澄人とかすみの恋愛を手助けしたいとちょっと思っている。澄人とかすみとは高校生の時からの付き合い。


「メリケンサックの悪魔」

夜の南沢寺にいる悪を排除する、謎の存在。南沢寺の都市伝説の1つになっている。

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