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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺での惰性的な日々はエモい。
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夜のファミレスは何だか儚い。

深夜に女子と2人きりで、どうしようもない夜を過ごしたい人生だった。


ようこそ、南沢寺へ。

夜のファミレスは何だか儚い。

南沢寺駅、南口から出てすぐにあるファミレス、「サンクチュアリ」。5階建ての建物の2階にある。

現在時刻、0時21分。

「サンクチュアリ」には、俺とかすみ。あと、他に3席ぐらいしか埋まっていなかった。深夜だから、当たり前か。

窓から南沢寺の街を眺める。

点々とした光が暗い街を照らしていた。だが、都会のように煌びやかなものではなく、弱々しい。淡く、寂しい雰囲気だった。

かすみとは向かい合って座っている。かすみは席に突っ伏したまま、顔を上げない。




4時間ぐらい前、家に帰ると鍵が閉まっていた。同居人のフリーター、碧夜が大概家にいるので、普段、鍵を持ち歩いていない。チャイムを押すが誰も出ない。電話したら、「今日は家に帰らない」と言う。どうしても、「帰らない」と言い張るので、帰ってくるまで24時間営業のファミレス、「サンクチュアリ」にいる事にした。そうしたら、偶然にも、かすみが既にここにいた。いや、彼女ではない。高校からの友達だ。今でも、同じ大学、南沢寺大学に通っている。


「家族が旅行してて今家に誰もいない。で、鍵は家に忘れたってわけ」


死んだ目をしながら無感情に言った。状況に絶望しているからではない。普段からそうなのだ。


「ここで夕食済ませたら、澄人達の家に泊まらせてもらおうと思ってたけど、ほんと使えない屑野郎だね、澄人は」


散々罵倒されたが、かすみも全く同じ状況だ。しかも、2泊3日の家族旅行。俺よりもよっぽど酷い。


「こんな可愛い女の子を一晩、こんな場所にいさせるわけー?」


可愛いのは認める。顔は確かに可愛い。柔らかそうな頰と綺麗な二重。赤茶色のショートヘアーも似合っている。ただ、問題は、死んだ目と無感情な喋り方。その2つが全てを台無しにしている。


「はいはい。一晩我慢しようね」


かすみはいつの間にかスマホを右耳に当てていた。


「あーもしもしー、私だけどー。いや、誰って、私だよ。分かるだろー。私だよ。おい、誰がブスみたいな声だ。めっちゃ可愛いわ。そうだよ、新垣結衣だよ。黙ってんなよ。かすみだよ」


多分、相手は同居人の碧夜だ。かすみと話す、彼のアッシュブルー色の髪と三白眼が想像出来る。


「どこいんの? え? 彼女の家? 彼女いたの、お前に。嫉妬しないわ。どうでもいいわ。どこにいんの? えっ、遠いとこ? 糞。使えない屑野郎。あっ、だから新垣ゆ……切りやがった」


かすみはこちらにスマホを差し出した。


「これ、俺のじゃん。い、いつの間に」


それを受け取る。


「碧夜の屑カス塵野郎は、彼女の家にいるって。だから仕方ない。今日は澄人と一晩ここで過ごす。過ごしてやる」

「めっちゃ上から目線じゃん。……いいけど」


まぁ、でも、1人よりはマシか。




現在時刻、0時22分。

どういうわけか、かすみはテーブルに突っ伏したまま、動かなくなった。

あぁ、と俺は納得した。

かすみは碧夜が好きなのだ。

かすみには碧夜と似ている部分が多々あった。人殺しのような目と死んだ目、荒い口調、上がらないテンション。だから、一緒にいて楽だったのだろう。何となくそうかな? とは思ってはいたけど、これで確信した。

夜のファミレスは何だか儚い。

俺は優しく、かすみの頭を撫でた。

思った以上に、サラサラした髪だった。

寝ているのだろう。起きてたらきっと、「何してんじゃ!」とブチギレて殴ってくる筈だ。

大丈夫。かすみならきっといい人、見付かるよ。

常にかすみには振り回されているが、何だかんだ、彼女のことが大切なんだなと笑ってしまった。

夜は長い。

その間、ゆっくり落ち着けばいい。

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