理不尽。
ちょっとだけお先に、新キャラ達のつまらない夜を少しだけ。
本当に仲のいい人同士って、大体こんなもんな気がする。←偏見
ようこそ、南沢寺へ。
暗い部屋。
テレビから放たれる、唯一の光が俺達を照らす。
ソファーの前で肩を並べて座る俺達3人は誰も動こうとしない。
「怖い、怖いよ、無理無理無理!!!」
俺は思わず、叫んだ。
「……」
「……」
両隣に座る、かすみと碧夜は黙ったまま。
「あー来るっ、来る来る来る!!!」
「……」
「……」
何故、2人は黙っていられるのか。
「うわぁっ! 無理だって! 無理!!!」
俺はもう限界に近かった。
「……」
「……」
というか、限界だった。
「ぎゃああぁぁぁああぁあぁぁっ!!!」
「「うっさいな」」
かすみと碧夜の鋭い目が俺を襲った。
「……終わった……」
俺は大きく溜息を吐くと、部屋の明かりをつけ、テレビからDVDを取り出した。映画の題名は、「殺戮夜」。家の近くにある商店街、「南沢寺ストリート」。その中にあるDVD&CDショップ、「レコレコ」で買った中古のものだ。この店では中古のものから新しいものまで売っている。
「はぁ、はぁ……まじ、無理、何これ」
ホラーは昔から大の苦手なのだ。何が面白いのか全く分からない。
「ほんとに……死ぬかと思った」
ソファーに乗り、ゴロンと横になった碧夜の顔が意地悪く微笑んで、歪んだ。
「死ねよ、そのまま」
「辛辣が過ぎるよ」
かすみはソファーの前に座ったままスマホを弄り始めた。
「ほんとに怖いの無理だよね、ウケるー」
かすみ特有の全く感情のこもっていない喋り方。
彼等とは高校の時からの付き合いだ。現在、俺は碧夜と同居している。ここは、俺と碧夜のシェアアウス。
「お願いだからホラー映画の何が面白いのか教えて欲しい」
かすみと碧夜はそれぞれスマホを弄りながら、間髪入れずに答えた。
「「ビビる奴の糞みたいな反応」」
「俺に何の恨みがあるの?」
こいつ等は高校の時からずっとそう。やけに俺に対して当たりが強い。信頼という言葉にするには少し愛情が足りない気がする。まぁ、突然、彼等に愛情が生まれたとしても、気持ちが悪いだけだけれど。
「ふぁーあ、眠ぃ……」
碧夜が大きな欠伸をした。
現在時刻、23時16分。
かすみは俺達の家の近くに住んでいるが、こんな時間に帰すのは危ない。俺達の住んでいる街、南沢寺は賑やかで、ある程度、今の時間でも人はいる。でも、都会と違って騒々しくはないのがいいところ。が、物騒な事件が頻繁に発生している。かすみを家まで送ればいいだけの話だが、ちょっともう、面倒臭い。
俺はかすみの前に立った。
「かすみ、今日泊まってくでしょ? こんな時間だし。明日、日曜だし」
かすみは相変わらずスマホから目を離さない。
「いやだー何ー? 誘ってるのー?」
無感情に言うなよ。そんなわけないだろ。
「うーわ、キッモ」
碧夜が蔑むような目を俺に向けた。
こいつ等……。
「そんな嫌い? 俺のこと」
かすみはやっとスマホから顔を上げ、死んだ目のまま両側の口角を吊り上げた。微笑んでいるつもりなのだろうけど、かなり不気味だ。
「月曜の講義の課題、見せてくれるならいいよ」
「何でそんな上から目線なの?」
かすみは常に目が死んでいる。全く感情が目に表れない。碧夜も似たようなもので、人を殺しそうな目しかしない。目以外で感情を表そうとしても殺人鬼のような、不気味なものになる。
「いいじゃーん、見せてよー」
……月曜の講義の課題。あれか、「街コミュニティ論」のレポート課題か。
「……仕方ないな」
俺はリュックサックから事前に印刷していたレポートを取り出し、かすみに渡した。
「はい、これ。レポート」
「サンキュー。マジ超感謝ー」
という割に、かなり無感情。一切スマホから目を離さないし。
「何でそんな無感情なん?」
かすみは再度、スマホから顔を上げ、俺を見た。その目は殺気立っていた。
「殺すぞ?」
「理不尽」
「レポートか……どーよ、大学は」
碧夜がソファーの上でスマホを弄りながら尋ねてきた。かすみと俺は同じ大学、南沢寺大学に通っているが、碧夜は暴力行為が原因で高校を中退して以来、学校のようなものには通ってない。謂わば、フリーターだ。まぁ、どこにも属せないのは、この口の悪さと暴力的衝動から頷ける。
「んーまぁ、課題は多いかなぁー」
俺は床に置かれた3つのコップをキッチンに持っていきながら答えた。
まぁ、ただ、悪い面だけじゃなく、それ以上にちゃんといい面もあるから、友達関係は続けている。
「お前には聞いてない」
「理不尽」
前言撤回。碧夜は悪い奴だ。
「イケメンはいんの?」
碧夜は続けて質問をした。
「澄人の近くにいたら誰しもイケメンには見えるね」
お互い顔を見ず、スマホを弄りながらコミュニケーションを取る、かすみと碧夜。
「……何か、ごめんな」
ぶはっ、と碧夜が吹き出した。
「お前、凄い才能だな。周りの奴等、皆イケメンに見えるって」
そんな面白い?
「褒めないで。ディスられたんだよ、俺」
俺はロフトの階段に腰をかけた。
かすみが天井を見上げながら言った。
「あー……彼氏欲しいわ」
俺は微笑んだ。
「だってよ、碧夜君」
碧夜とかすみは気が合いそうな感じがする。死んだ目と人殺しの目。お似合いなのでは?
碧夜はすかさず、俺を睨んだ。
「は? 君付けすんな」
ブルーアッシュ色に染まった髪。目にかかった前髪から覗く、碧夜の三白眼が俺を捉えた。
知らない人にそんな顔されたら怖くて謝りたくなるが、こんなのはもう慣れっこだ。
俺は笑顔を崩さない。
「照れちゃってー」
碧夜はソファーから上体を起こした。
「お前が凄い死にたい奴だってことは伝わった」
俺は鼻で笑った。
「すぐ死活問題にしたがる」
「私の為に争わないでー」
かすみがスマホを弄りながら言った。
「してないよ、落ち着いて」
と、俺。
「調子に乗るな、塵」
と、碧夜。
「凄い責めてくるじゃん」
急な攻撃に珍しく目を真ん丸とする、かすみ。
「どんな人がタイプなの?」
碧夜が尋ねる。
「ビビリじゃない奴」
かすみは即答。
「特定的に振ってくるじゃん」
俺は苦笑いせざるを得なかった。
かすみが突然立ち上がった。股間でも蹴られるんじゃないかと思い、少し身構える。
「トイレ行ってくる」
かすみは部屋から出て行った。
「「行ってら」」
碧夜と2人になった。碧夜は再度、ソファーに寝転び、スマホを弄り始めた。俺は特にやることもないので階段に座ったまま、再び、天井を見上げた。
数秒の沈黙。
碧夜がスマホから俺に視線を移した。
「……なぁ、澄人。めげんなよ」
「え?」
何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。俺は碧夜の顔を見たまま首を傾げた。
「何が?」
ふん、と碧夜は鼻で笑った。
「いいよ、惚けなくて。あいつはな……かすみは、素直になれないだけなんだ」
「……え、何なの。何を応援されてんの?」
まじで、分からない。
碧夜はそんな俺を見て、面倒臭そうに舌打ちした。
「ちっ、これだから鈍感は糞なんだよ、カス」
「……え、何なの。何でディスられたの?」
本当にこいつ等は、理不尽だ。
ここからは、澄人達の短編が続きます。
1人でも好きなキャラクターがいれば、幸いです。




