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南沢寺での惰性的な日々はエモい。  作者: 濃紺色。
南沢寺での惰性的な日々はエモい。
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深夜のコンビニ散歩。

深夜のコンビニ散歩って何だかとても特別だよね。

誰と行っても。何故だかワクワクする。


ようこそ、南沢寺へ。

「コンビニ行かない?」


お姉ちゃんの提案に僕は二つ返事で頷いた。

現在時刻、23時57分。もうすぐで0時だ。


「……2人で?」

「2人で」


お姉ちゃんと2人で深夜のコンビニ散歩なんて、何年振りだ。

同居人であるお姉ちゃんの元彼氏が今家にいなくてよかった、と心から思った。

深夜のコンビニ散歩という、妙な特別感が胸一杯に広がる。明日、学校が休みだから余計かもしれない。

僕達は家を出た。

南沢寺の夜は、街灯が星に見える。

他の街にはない、美しさが南沢寺にはある。まるで、綺麗な映画の中にいるような……。

住宅街付近にはあまり人がいない。静かで暗くて、とても安心する。

この道をまっすぐ進めば、南沢寺の商店街、「南沢寺ストリート」がある。その中にコンビニ、「エイトトゥエルブ」がある。


「2人で、深夜に散歩なんて、いつ振りだろうね?」


お姉ちゃんもワクワクしているのか、いつもよりテンションが高い。


「……少なくとも、僕が高校生になってからは1度もないよ」

「湊がまだ小学生の時はさ、深夜にコンビニ散歩したら、もっとはしゃいでたんだよ。お姉ちゃん、お姉ちゃん、今日は何買ってくれるの? って」

「……嘘だ」

「本当だよ。いつからそんなクールキャラになったの? 思春期?」


そんなのじゃない。僕はずっとこんなテンションだ。感情の表現方法が分からないのだ。

いや……でも、このドキドキは多分……。


「冷たっ」


突然、お姉ちゃんが立ち止まり、両手で頭を抑えていた。


「……どうしたの?」


お姉ちゃんは右掌を見つめた。


「……何か、液体が空から……」

「……雨、かな」


僕は空を見上げた。綺麗な濃紺色が頭上に広がっているだけだった。雲なんて少ししかなかった。


「白いよこれ……最悪だよ、ふんだよ。もぉー……」


お姉ちゃんは頰を膨らませた。不覚にも可愛いと思ってしまった。僕達が、義理でも姉弟の関係でさえなければ、この気持ちを伝えることは簡単だっただろうか。


「……お姉ちゃん、ほら」


僕はポケットから小袋に入ったウエットティッシュを取り出した。僕は普段からハンカチとティッシュ、そして、ウエットティッシュをポケットに入れている。


「お、ありがとう、湊。絶対モテるでしょ?」


お姉ちゃんはその小袋を受け取ると、ウエットティッシュを何枚か取り出して頭や両手を入念に拭いた。


「……ゴミ、貰うよ」

「いいよ、大丈夫」

「コンビニで何か奢ってもらうからさ」


お姉ちゃんは申しわけなさそうに小袋と使用済みのウエットティッシュを渡してきた。上着のポケットに小袋を入れ、ズボンのポケットにゴミを入れた。


「湊、女の子の扱いになれてるねぇ」


お姉ちゃんは意地悪く微笑んだ。

胸がズキズキ痛んだ。

僕は相手がお姉ちゃんだから、こういうことをするんだ。決して他の人にはやらないよ。……なんて言葉に出来ず、


「……興味ない、そういうの」


そっぽを向くことしか出来なかった。

商店街の明かりが見えてきた。

深夜なのにまだ少し人がいた。

賑やかなのに、落ち着いている。

南沢寺特有の、このレトロな雰囲気が好きだった。

「南沢寺ストリート」の門を潜る。シャッターが閉まっている店が7割ぐらい。未だに営業してる店が3割ぐらいだ。

コンビニ、「エイトトゥエルブ」は商店街に入ってすぐにある。こちらから見て、左側に並ぶ店の3店舗目だ。

まだ、ワクワクしているが、この散歩の終わりを既に感じ始めていた。

お姉ちゃんと一緒にコンビニに入る。

僕は既に買う物は決まっている。商品を手に取り、お酒を選んでいるお姉ちゃんを待つ。お姉ちゃんが選んだのは、淡いピンク色のアルミ缶に「宵宵」と記されたピーチ味の酎ハイ。


「……お姉ちゃん、宜しく」

「好きだね、その組み合わせ」


僕が1人でコンビニに寄った時によく買う2点セット。

お姉ちゃんがレジでお会計を済ませ、僕達はコンビニから出た。

あぁ、終わってしまう。散歩が、終わってしまう。行く時はあんなにワクワクしていたのに。

僕達はコンビニの前で立ち止まった。


「ほい、これ今飲むでしょ?」


お姉ちゃんはビニール袋からカルピスを差し出した。


「うん、シュークリームは家で」

「私もそうする」

「……それ、持つよ」

「ありがとう、湊」


お姉ちゃんは「宵宵」を取り出すと、僕にシュークリームが2つ入っているビニール袋を渡した。

このシュークリームが家に帰ってからの、唯一の楽しみだ。でも、こんなもの、5分もしない内に食べ終わってしまう。

プシュ、と飲み口を開ける音が聞こえた。


「乾杯」


お姉ちゃんが「宵宵」をこちらに近付けた。

僕もペットボトルの蓋を捻り、開けた。

終わってしまう。終わってしまう。これを飲みながら帰って、深夜のコンビニ散歩が、このワクワクが、特別感が、全部……。


「……乾杯」


お願いします。どうか、どうか、あの、ドキドキしていた時に僕を……。

コンッ、とアルミ缶が、ペットボトルに当たる感覚が右手に伝わった。


「あ」


ボッー、とし過ぎて、カルピスを少し零してしまった。

お姉ちゃんは「宵宵」を一口飲むと、


「もぉー、何やってるの。勿体ない」


そのふざけて作ったお姉ちゃんの怒り顔が、とてもとても可愛くて、愛おしかった。

今回の話で、湊君達の短編は一旦、終わりです。

次からは新たなキャラクター視点で、南沢寺を描きます。

こんな風に、あるキャラクターを中心にして、短編が続きます。もしかしたら、どこかでまた、湊君達に出会えるかもしれません。

では、彼等には、また会う日まで。




【1話〜10話までの登場人物】


雨沢あまざわみなと

主人公。高校1年生。16歳。特徴は目が死んでること。表情も同じく死んでいる。少し面倒臭がり。口数が少なく、よく心の中でツッコむ。両親が離婚し、父親について行く。父親は新しい母親と再婚し、南沢寺に引っ越す。が、新しい母親の娘であり、湊にとって新しい姉である水帆を置いて出て行ってしまう。両親からの仕送りはある。水帆と南と3人で、南沢寺で暮らしている。小学2年生の時に南沢寺に引っ越し、滴と紗奈に出会う。義姉の水帆を密かに想っている。水帆の元カレである南を敵視している。


水瀬みなせしずく

高校1年生。茶髪。テンションが高く、馬鹿。南沢寺で生まれ、南沢寺で育った。南沢寺にある実家で暮らしている。紗奈とは家族ぐるみで仲がよく幼馴染。湊とは小学2年生の時に出会う。紗奈のことが好き。


山崎やまざき紗奈さな

高校1年生。気は強いが、面倒見がよく、人が困っていると放って置けない。特に、湊と滴に関しては。南沢寺で生まれ、南沢寺で育った。南沢寺にある実家で暮らしている。滴とは家族ぐるみで仲がよく幼馴染。湊とは小学2年生の時に出会う。滴にはかなり強く当たる。南沢寺のライブハウスを中心に活躍する「夜と羊。」というバンドが好き。


雨沢あまざわ水帆みずほ

6月生まれ。21歳。大学に行かず、働いている。お人好し。両親が離婚し、母親について行く。母親は新しい父親と再婚し、南沢寺に引っ越す。が、新しい父親の息子であり、水帆にとって新しい弟である湊を置いて出て行ってしまう。両親からの仕送りはある。湊と南と3人で、南沢寺で暮らしている。弟思い。元カレである南が忘れられなくて、路頭に迷っていた南を誘い、一緒に暮らすことに。


色瀬いろせみなみ

「南沢寺パフォーマンス」にある劇団「羊と夜。」の団員。バイトもせず、南沢寺の小劇場を中心に(下北沢、高円寺、阿佐ヶ谷でも、たまに)俳優活動をしている。21歳。黒髪マッシュ。甘い笑みで女子を惑わす。色々ふわふわしている。路頭に迷っていた時に水帆に誘われ、湊と水帆と3人で、南沢寺で暮らすことになった。水帆のことをどう思っているかは不明。


加奈子かなこ

南と同じ、「南沢寺パフォーマンス」にある劇団「羊と夜。」の団員。南の先輩女優。南には「加奈子さん」と呼ばれている。褐色肌。艶々の唇。茶髪のショートヘアー。30代ならではの色気。大きな胸と綺麗なお尻、太腿で多くの男性を魅了。30代特有の色っぽい見た目から年上好き、お姉さん系好きな男性ファンが多数いる。


ショウ君

目付きの悪い、「マッシュ」の男性店員。何故か、初めて会った湊を敵視している。


チヨ

低身長で巨乳の、「マッシュ」の女性店員。かなり、色っぽい。


涼夜りょうや

南沢寺に住む、ただの社会人。明日香の彼氏。


明日香あすか

涼夜と同棲している。涼夜の彼女。

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