#108 ゼロ
ゼロが起きた時、感じたのは違和感だった。
いつもみる城の天井じゃない。
ゼロはゆっくりと思い出した。
漆黒の竜に負けて国へグラトニーを送り届けたが部位の欠損が激しく、すぐに倒れてしまったのだ。
「ここは……?」
衛生的な病室のようだ。
しかし、自分の心配よりグラトニーの安否が知りたい。
マスターは無事なのかと。
「目が覚めたか。」
声の主は優しい口調でゼロに話しかける。
「その声、まさかと思いますけど……。」
「はっはっは。さすがだな、作り主の声は忘れないか。」
声の主はかつてゼロを作りそして死んでしまった博士、若かりし日のグラン=ゼルトマンだった。
「博士……。」
ゼロはボロボロと涙をこぼす。
「感情まで芽生えているのか。さぞかしいい主人と出会ったのだろう。」
博士は優しい声でゼロをなだめ、頭を撫でる。
ゼロはしばらく博士の腕の中で泣き続けた。
「ご迷惑おかけしました。」
「いやいや、久しぶりにお前と会えてよかったよ。」
博士は小さな椅子に腰掛ける。
「ここは?」
「ここは俺がアマノガワに捕まる前に俺が使っていた場所を元に作られた場所だ。」
「それにしても博士は私を作った後にお亡くなりになったのでは?」
「まぁ今も死んでいる扱いだけどな。さっきも言っただろ、ここは再現した場所。固有結界と呼ばれる場所だ。」
「固有結界……ですか?」
「そう、頭の中ともいうな。俺は意志が強かったからか魂のみの存在となりながらも自身の固有結界内で死んでからもくつろいでいたってわけ。」
ゼロは奥の部屋に置いてある紅茶を見つける。
「亡くなったのに随分と優雅に暮らしてたんですね。」
「こ、これは違う!!たまたまだ!!」
「……博士ってマスターみたいな動揺の仕方ですね。」
グラン博士はアセアセとずれたメガネを上げ、部屋の扉を閉める。
「それで、お前をここに呼んだ理由だけど。」
グラン博士は急に真剣な顔つきになる。
「博士、無理しなくてもいいですよ。」
「ゼロ!!かっこよく言いたいんだから邪魔するんじゃない!!」
グラン博士はもう一度咳払いをして喉を整える。
「お前の本体は今どこにいると思う?」
「本体?……ここではないのですか?」
「ここにいるお前は魂のみの存在。お前の本体は今治療所で治療されている。その間に魂だけをこちらに呼んで特訓をするってわけだ。」
「特訓ですか?」
「そう、これは『博識の試練』!!」
グランは白衣をバサッと翻す。
「お前には極限状態技術を習得してもらう。」
アルファポリスでも投稿始めました。
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