#105 黒色の絶望
「案外あっけなく終わったな。下手すればゴルサヴァクより弱かったんじゃね?」
「それは単純にマスターが強くなっただけでは?」
「まぁ俺も騎士団と一緒に訓練したり魔術とか錬金術の勉強もしてるからな。」
「仕事をサボってまで?」
「………。」
俺は無言でリルドモルトの鱗を剥がす。
こいつの鱗は正真正銘の純金でできているから高く売れそうなのだ。
「それにしてもこんなあっさり倒せるのはおかしいんじゃないか?」
「そうですね、それでも最弱と呼ばれないのはここの噂も関係してるんじゃないですかね。」
「噂?」
「はい。あくまで噂なんですけどここに漆黒の竜が住んでいるという噂です。」
「漆黒?こいつはどう見ても金色だろ。」
「そうです。だからそれを確かめに冒険者が何人かここにきたらしいんですけど全滅。かろうじて生き残った2名が『漆黒の竜を見た。』といって後日なくなっています。」
「二体目の竜の存在があるかもってことか。」
そんなことはないと思うけどな。
あくまで噂。
ただ、さっきから嫌な寒気がする。
久しく抱かなかった感情、恐怖が全身を包み込んでいる。
何故かはわからない。
ただ、怖い。
バサッ、バサッ、バサッ
嫌な音がする。
何かの羽音だ。
大きな羽が宙をかく音。
大きさからして、竜の可能性が。
嘘であって欲しい。
空に何かいる。
視線を感じる。
「ぜ、ゼロ……。」
俺はゼロを呼ぶ。
「は、はい。」
ゼロはか細く返事をした。
普段感情を表に出さないゼロですら怯えている。
ブルっと身震いする。
武者震いでもなんでもないただの身震い。
俺は恐る恐る上を向く。
空には漆黒に染まった竜が。
全身から暗黒の瘴気を撒き散らし、羽はボロボロにだが力強く、背中には禍々しい紫色の水晶が。
漆黒の竜はバサリと地面に降り立つ。
でかい。
今まで見た竜の中で最も大きい。
「ゼロ、逃げるぞ。」
俺はそう言っものの足が動かない。
恐怖とは時にここまで人間を弱くするものなのか。
俺はただ震えながら漆黒の竜を見るしかなかった。
竜はしばらく俺のことを見た後、口を開けた。
口に瘴気が集められ、黒色のエネルギー球のようなものが作られる。
そして漆黒の竜はそれを一気に吐き出した。
俺はその球をもろにくらってしまった。
「あぐぁぁぁぁ!!!!!」
体全体に裂けるような痛みが。
俺はパタリと倒れてしまった。
恐怖で身がすくんでしまった。
漆黒の竜はもう一度同じようにエネルギー球を作り出し、俺めがけて吐き出した。
「マスター!!」
ゼロが身を挺して俺を守ってくれた。
絶対防御形態のゼロですらも傷がついてしまった。
「お前!!早く逃げろ!!!」
「逃げますよ。ただし、マスターと一緒にね!!!」
ゼロは俺をサッと抱えると空へ飛び立ち、漆黒の竜から逃れることができた。
それを知ってほっとしたのか俺は意識を失ってしまった。