ネカフェ
最初に感じたのはホコリっぽい空気。
「ぶ、くしゅっ」
くしゃみで目が覚める。
反動で、何かが背中に当たる感触。
続いて、頭に落ちてくる固いもの。
「いたっ」
目をあけ、体を起こす。頭をさすりながら落ちてきたものへ手を伸ばす。
「これは、コミック?」
手にしたコミックをそっと置き、そこでようやく俺は周りを見回す。
薄暗いなか、乱雑に倒れた棚。その棚から散らばったとおぼしき本たち。
背後には細かく区切られたブース。
人の気配はない。
天井の電灯は全て消え、どこからともなく差し込む光で何とか辺りの状況が確認できる。
よろよろと立ち上がった俺。
足元の本をできるだけ踏まないように気をつけて、立ち並ぶブースの方へ。
ゆっくりと、そのうちの一つのブースのドアを開ける。
そこは見慣れた風景。
狭い空間に置かれたリクライニングチェアと、その前に設置されたパソコン。
本棚が倒れているのとは対照的に、このまま使えそうな状態のそれら。
「ネカフェ……だよな? 一体なんでこんな──」
そこで俺はようやく思い出す。
ダンジョンコアを回収したこと。アクアの残滓が仕込まれていたこと。俺の魔法銃と一緒に勝手に繭化しはじめたコア。アクアの残滓を追い出そうと試み、何とか成功。しかし、何故か突然膨らみ始めた繭に江奈さんと一緒に取り込まれたこと。
「江奈さんはっ?!」
はっと、ネカフェの中を見回す。
目につく範囲には居ない。俺は一つ一つブースをまわって、江奈さんを探し回る。
「居ない──」
俺ぐらいのネカフェユーザーになるとブースの配置と規模で、店内配置はだいたいの検討がつく。
その勘にしたがって、付属されたシャワー室やトイレへ。
「ここも居ないか──。後はスタッフルーム」
さすがに入ったことはなかったが、予想以上に狭い。事務所らしき場所も簡易的なキッチンにも人影一つない。
その途中で見つけた、外への扉。
──外、すぐ近くに居るといいんだが……。
俺は装備品がしっかりあるのを確認すると、まずステータスが開くか試してみる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆
年齢 24
性別 男
オド 27
イド 15
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
チェーンメール (スキル インビジブルハンド)
カニさんミトン (スキル開放 強制酸化 泡魔法)
黒龍のターバン (スキル 飛行)
Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)
スキル 装備品化′ 廻廊の主
召喚
魂変容率 17.7%
精神汚染率 ^D'%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「っ! ステータス、開いた!」
一気に高まる緊張。
俺は改めてホッパーソードを握りしめ、外へと続く扉へ近づく。
それは、電源の切れたガラス製の自動ドア。
手をかけ、ゆっくりと横へスライドさせる。
抵抗を感じながらも、スムーズに開いていく自動ドア。空いた隙間をくぐり抜け、風除室へ。そして、外へと続く次のガラス戸を、押し開けた。