回廊
ほどけはじめる魔法銃。
白い糸のようになったそれが、まるで引かれるようにして俺の手のコアへと移動してくる。
くるくる。
くるくる、とコアへ巻き付き始める魔法銃だった白い糸。
まるで繭に戻ろうとするかのように。
「な、何が?!」
「朽木、それっ! 止まらないの?」
「やってみるっ」と俺は自身のイドを通して魔法銃が制御できないか試みる。
自らの意識の片隅に、確かに存在するそれ。
ガンスリンガーの修練の中で獲得したイドの知覚。
この漆黒の瞳と化す中で獲得した視界。
その視界では魔法銃と自分自身を繋ぐパスが確かに見える。
そのパスを通じて、支配を確立しようと魔法銃へ、イドを注ぎ込む。
手応え。
魔法銃が俺のイドに応え、繭化が止まる。
ほっと息を吐いた時だった。
コアが魔法銃を引っ張っている。
そうとしか表現出来ないような感覚。
再び始まる魔法銃とコアの繭化。
俺は今度はコアにまで届くように、さらにイドを注ぐ。
違和感。
コアに、自分以外の存在を感じる。
「アクアっ、こんなところに!」
感じたのは、アクアの存在の残滓。
コアに隠れ潜むように、アクアのものとしか考えられないイドの存在を知覚する。
「くっ、駄目だ」
俺は力の限り、イドでコアに隠れたアクアの残滓を追い出そうと試みる。
しかし、うまく捉えることが出来ない。
手間取っているうちに、俺の腰にあった魔法銃は全て糸となり、手の中でコアの繭が完成する。
手の中で繭が、変質を始める。
それに伴って、空中に浮かび上がる無数の魔法陣。
「朽木、早くそれを捨ててっ」と江奈の叫び。繭を払い除けようとした江奈の腕。しかしまるで繭は実体が無くなったかのように、貫通してしまう。
「駄目だっ、離れない。江奈さんは逃げて!」
巨大化し始める繭。非実体となったそれは俺も江奈も飲み込み、さらに拡大していく。
「とらえたっ」俺はその中で、アクアの残滓を捕捉することに成功する。力の限りを尽くし、繭から追い出す。
半透明のスライムの形で飛び出してきた、それ。
しかし時、すでに遅く。
繭の変質が完成してしまう。
今度は急速に縮み始める繭。繭に取り込まれていた俺と江奈を巻き込み、縮み続ける。一層激しく輝く、周りを取り囲む魔法陣。
魔法陣が扉のような形を作ったかと思うと、縮んだ繭がそこへ吸い込まれていく。俺と江奈を連れて。
次の瞬間、ダンジョンマスターの部屋には誰も居なくなっていた。