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「クチキ、お前は邪魔なの。回廊の主権、渡してもらうの」


 人の姿を取ったアクアの第一声がそれだった。

 俺は戯れ言めいたアクアの言葉を無視。その動きにだけ意識を集中させる。

 アクアも俺に語る無意味さに気づいたのか、両手を天に向け掲げ叫ぶ。


「はじめるのっ!」


 その叫び声がドームに反響する。

 ドームに空いた無数の穴から響く、ズルズル、ジュブジュブとした音。

 大小様々な種類のスライムが、穴という穴から溢れだし押し寄せて来た。


 最初から全力でいくと決めていた俺は、その時には既にイド生体変化でイド・エキスカベータと情報処理器官を作成済み。

 そして、一気に加速する知覚。

 限界までイドを汲み出す。


 ゆっくりと迫るスライムの壁。

 その時だった。

 限界のはずのイドの汲み出し容量の上限が感じられなくなっていた。

 と、同時に何かが視界を遮る。

 そっと手を、自らの顔に当てる。


 手のひらを濡らす、黒い何か。

 ──目から闇が溢れている?


 手のひらに残る黒い闇。それは手のひらの上はで崩れるように消えていく。


 不思議に思いながらも、更にイドの汲み出し速度を上げ、取り出したミョルニルに注いでいく。

 紫電を放つミョルニル。

 轟音を立て、ミョルニルの先から飛び出した雷が、迫りくるスライムたちにそのまま突き刺さる。


 爆音。

 そしてバンっと音を立て、次々に弾けとんでいくスライム。


「まだまだなのっ。ダンジョンマスターの名の元に命じる。『スタンピード』発動なのっ」


 ポツンと、そこだけ避けるようにスライム達の奔流から免れた空間。アクアが更にスライム達を呼び出していく。


 無尽蔵に思えた俺のイドでも、そのあまりの物量に押され始めてしまう。


 ──いや、イドのせいじゃない。ミョルニルだ。これが押し負けている原因だ。雷に変化させる効率で負けているんだ……


 俺は手の中で、嫌な振動をしはじめたミョルニルを見下ろす。

 圧倒的な俺のイドを受け止めきれないのか、段々と軋み始めるミョルニル。


 ──ミョルニルが限界だ?! しかし、それでもこれが現状最大効率なんだよな……。よしっ。それなら。


 俺は雷でスライム達を薙ぎ倒しながら、背嚢を漁る。

 指先に触れる金属を確認。

 バングルを外し、俺は装備を換装する。


「武具具現化、発動っ」


 俺の指先で光るググリング。


「プリューナク!」


 ググリングの一部が変形し、槍を形作り始めたその時だった。

 俺の瞳から溢れていた闇がググリングへと集まっていく。

 ググリングから槍の形状に伸び始めた金属。そこにまとわりつく闇。


「ぐあぁぁぁっ」


 ググリング使用により襲いかかる魂の変容。さらにそれと同時にググリングを嵌めた指に、燃えるような痛みが走る。

 あふれでた闇で漆黒に染まったググリングが、溶けていく。溶けた金属で、俺の指が真っ黒に変色する。

 抑えきれない苦痛が絶叫となって俺の口から漏れる。


 間の悪いことに、そこで最後に激しく振動し、ミョルニルが碎け散ってしまう。

 ここぞと押し寄せるスライム達。のたうち回る俺の目の前には、ググリングが溶けきる前に完成していた一本の黒い槍。

 無我夢中で、俺はすがり付くようにその槍を手に取った。











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