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憑依

 これまでのミズ・ウルティカとは明らかに異質な動き。

 人の体の構造を無視したかような、強引な挙動で放たれた銃剣の一撃が、影に決まる。しかし同時にミズ・ウルティカの体から響く、ミチミチという肉の引きちぎれるような嫌な音。折れ曲がる四肢。


 一瞬動きを止めた影。さらにそこへ不発弾スキルでチャージされていたと思われる無数の魔法弾が、まるで嵐のように襲いかかる。


 断続的に叩き込まれていく衝撃。空中で、影が踊っているかのようだ。


 バラバラになる影。

 しかしその時だった。影本体から抜け落ちた一本の黒い針が、移動できないミズ・ウルティカの額をかすめる。

 首だけをふり、落ちてきた黒い影の針を避けるミズ・ウルティカ。

 針の先端がミズ・ウルティカの耳の脇を通り過ぎようとした瞬間、くわっと針の先端が小さく開く。

 そこから飛び出した細長い黒い舌の様なもの。それがミズ・ウルティカの耳へと入り込んでいく。


 落下する針の動きに合わせ、ミズ・ウルティカの耳からドロリとした粘体が黒い舌によって引き摺り出されていく。


 崩れ落ち、痙攣し始めるミズ・ウルティカ。


 ようやく回復してきた俺は、ちょうどカニさんミトンを装備し直していた所だった。

 目の前で展開される、ミズ・ウルティカの尋常じゃない様子。

 見れば粘体と共に、脳みその一部らしき物が混じっている。

 そして、蠢く粘体。

 唐突に理解する。


 ──アクア


 ごたまぜになった感情、一気に沸騰する俺の意識。

 思わず泡魔法で酸の泡を作り出すと、その粘体へ撃ち込む。


 溢れ出て、大きな水溜まりほどまでなっていた粘体。それは俺の泡魔法を避けるように、跳び跳ねた。


 俺は粘体が離れたのを確認し、ミズ・ウルティカに駆け寄る。

 走りながら取り出したのは、アンプルのようなケースに入ったポーション。針を露出させると痙攣し続けている彼女に突き刺した。

 リビングメイル戦で手に入れた、まさに秘蔵の一品と言えるポーション。ギルド職員に霊薬とまで言わしめたそれは劇的な効果を発揮した。


 痙攣が止まり、折れ曲がっていた四肢も戻る。安定した呼吸を始めるミズ・ウルティカ。


 ──もう、誰かが死ぬのは本当にこりごりだ。


 俺は、ふっと息を吐き出す。

 立ち上がった俺の目の前には、人型を取り始める粘体。

 一息、息を吸う。そして沸き上がる、純粋な怒り。


 かつて共に旅した姿をとる粘体に、俺は告げる。


「アクア、お前はここで終わりにする」






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