食らいつく
「陰魔法、補助的な魔法なんだろと思っていたけど。まさかこんな特大の地雷が埋まっていたとは……」
俺は全く制御できないまま、俺のイドを奪い続けてミズ・ウルティカに襲いかかる影を見て呟く。
流れる冷や汗。
その間にも、影──流転陰生──が、全身から生えたの針をミズ・ウルティカに向ける。
針先から、黒いものが次々に射出される。
それは、漆黒の歯。
人の歯の形を模したものが、高速でミズ・ウルティカに食い込もうと迫る。
しかし、ミズ・ウルティカも流石ナインマズルの一員。おかしな様子は変わらないが、相変わらず人間技とは思えない銃剣捌きを見せる。
思考が加速されていない俺では、それはただの一振りとしか知覚しえない。
その一振りで、飛翔する漆黒の歯は、全て叩き落とされている。
飛翔する歯は、決して直線上に位置していたわけでないのに。
俺はその様子を見て、徐々にミズ・ウルティカの持つスキルの正体に意識が向く。
──少なくとも、二つのスキルを使っているっぽい。一つは知覚強化系。それも範囲が限定されているかわりに、かなり強力なやつ。もうひとつが、あれだ。
次々に殺到する歯を叩き落とす合間に、ちょうどミズ・ウルティカの銃剣の引き金を引き絞る動作が挟み込まれていく。
──想像するに、事象を遅延して発動させる系統のスキルって感じがする。『不発弾』スキルって。俺と戦っていた時もああやって引き金を引いて、発射されるはずの魔法弾を遅延させてまとめて発動させたんじゃないかな。しかも、魔法弾の発射だけじゃなく、銃剣の切り裂く攻撃でも使ってる節があるよね、あれ。
と、俺が考えている間にも、徐々に苛烈になるミズ・ウルティカと影の戦い。
俺と相対していた時とは明らかに違い、ミズ・ウルティカの何の遠慮もなく攻撃する様子が、ここからでも見てとれる。
──やっぱりミズ・ウルティカ、意識があって、操られているのいるのかな? 話そうと必死に見えた様子しかり、今の全く容赦のない攻撃しかり。
「あっ!」
俺がようやく何とか息を整えている間に、ミズ・ウルティカと影の戦いの均衡が崩れた。