扉を探して
江奈の入れてくれたお茶を手に、皆、思い思いの格好で小休止している。
俺は、大理石の階段の最下段に腰掛け、物思いに耽っていた。
「深淵の混沌の先。時の灯りの照らさぬ地に生えし不可触の大樹。そは一葉の雫を母とし、父を持たぬ者よ。呼び掛けに応え、鼓動打ちし不定の狭間より顕在せよ……」
アクアの事を思い出していたら、ふと、口ずさんでいた。
「それは何です?」
「確かアクアを召喚したときの文言ですね」と江奈がミズ・ウルティカに答えている。
江奈さんは一度しか聞いてないはずなのに良く覚えているなと俺は感心しながら、心のどこかで引っ掛かりを覚えていた。
その引っ掛かりが気になって、さらに言葉を重ねてしまう。
「大樹、一葉の雫。逆巻く蒼き螺旋の番人、空に見える幻想。オッカムの剃刀、キーは一つ」
それは、推理とも言えない、ただの連想ゲームじみた直感だった。
しかし、これが正解だという、どこにも根拠のない自信が沸き上がる。その思いつきを確かめたくて、俺は江奈に詰め寄る。
「江奈さん、マップっ! 見せてっ」
「え、ええ。どうぞ」
俺は奪い取るようにマップをもらうと、地面に広げ覗きこむ。
大理石の柱にもたれて、立ったままお茶を傾けていたミズ・ウルティカも、何事かと近づいてくる。
広げた地図に描かれているダンジョン。それは歪なアメーバのような形だった。
四方八方に枝分かれしたように通路が伸び、所々に、ループしたと思わしき印がついている。
しかし、そこに明確な転移のポイントがあるわけではない。歩いていたらいつの間にか、というループ。
当然、地図では重複している通路部分が多々出てくる。
それを脳内で補正していく。
「ここと、ここ。ここは実際の転移のタイミングは、ここら辺のはず……」
そして、直感で得た答えを元に、逆算して脳内で地図を組み立て、見ていく。
「転移の罠の中心は……ここだっ」
俺は地図の一点を指差す。それは偶然にも、江奈がループを指摘した大理石のトンネルの場所だった。
横でその様子を伺っていたミズ・ウルティカが口を開く。
「私のスキルの一つで確認済みですけれど、そのトンネルには一切仕掛けなどはありませんでした」
──ふむ、ミズ・ウルティカのあの圧倒的な空間認識能力はスキルだったんだ。まあ、じゃなきゃ、あんな後ろにも目があるような動きは出来ないか。って、そうじゃなくて……
「あー。はい。トンネルには何も無いとは思います」
「じゃあ、どこに?」と江奈。
「上かなって思うんだ」と、俺は天井を指差しながら答えた。