集合体
無数の意思を持った、黒いつぶつぶ。
俺は泡魔法で酸の泡を複数つくる。宙に浮かした泡を、つぶつぶが濃そうな部分めがけ、打ち込んでいく。
隣では江奈の七色王国が火を吹く。
明らかに、回避の意思を見せ、つぶつぶ達は、俺たちの攻撃を避けていく。もちろん、数匹のつぶつぶには俺の酸の泡が当たり、どろどろに溶かしていく。
全部で、十数匹は溶かしたであろうか。
しかしほとんどのつぶつぶは、攻撃をかわしてしまう。
「数が多すぎて、狙いが定めにくい……」と、思わず漏れる俺の愚痴。
──それでも、倒れた一匹が、装備品化したのが見えた。でも、残念ながらつぶつぶの中に埋もれてしまった。こうなると回収はすぐには無理だろうな。
新しいスキルが状況打破に有効か不明な以上、無理をして回収するにはリスクが高すぎる。現状出来る最善を尽くそうと決意する。
「面制圧するしかない、か」
俺は意を決し、大量のイドを引き出そうとする。盾の形の泡魔法の応用で、薄く広い、広域範囲型の酸の泡をイメージ。しかし、俺が発動する前に、事態が動く。
ミズ・ウルティカがゆっくりと、つぶつぶの集合体に向かって歩みを進めたのだ。
即座に援護にまわる江奈。ガンスリンガー同士のあうんの呼吸とも言うべき、それ。ミズ・ウルティカが倒しにくそうな場所にいるつぶつぶに、的確に江奈は七色王国を打ち込んでいく。
地面で蠢き、空間を跳ね回るつぶつぶ達。
幾匹かは、七色王国を避ける。それらはそのまま、ミズ・ウルティカの必殺の領域に誘い込まれていく。
ミズ・ウルティカの歩みが、つぶつぶ達のいる空間へと到達。そのまま立ち止まったときだった。
蹂躙が、開始された。
銃剣の一振り。
それだけで、その軌道にいたつぶつぶ達は弾け、死んで行く。
また一振り。
そしてまた、一振り。
まるで優雅なダンスのようなミズ・ウルティカの動き。それは無駄を極限まで削減された、虐殺の舞。
あっという間に個体数を減らされていくつぶつぶ達。
危機を感じたのか、ミズ・ウルティカに攻撃を集中していく、つぶつぶ達。ミズ・ウルティカは歓喜の表情を浮かべて、銃剣の動きを加速させていく。
すべての黒いつぶつぶが切り裂かれたのは、それから僅かばかりの時間がたった頃であった。