走る激震
トンカチを拾った俺は、師匠の館に帰ってきた。
辺りに敵の姿は見えない。
警戒しながら素早く館に近づき、敷地に入る。
館のドアを開けた瞬間、頭上から額に突きつけられる銃口。
俺は思わずホールドアップして立ち止まる。
「クチキ! お帰りなさい?」
「あ、ああ。エナさん、ただいま。どうしたのそんなところで。」
江奈は、館の入り口のドアの上の飾り棚に足をかけ、逆さまになりながら銃を構えていた。
ピタリと俺の額に張り付いていた銃口を離し、銃をしまう。そのまま、くるりと回りながら飾り棚から飛び降りる江奈。
「もう、動いて大丈夫なの? エナさん。」
「イドの枯渇は落ち着いたわ。それより、ダンジョンの様子はどうなっている?」
俺はアクアがダンジョンから出ていないこと、マスター・ホルンバーグの関係者が率先して避難を指示してくれていること。そして、帰りがけに会ったモンスターの事を伝える。
「そう、アクアが新しく焔……いやもう名前も違うはずね。このダンジョンのダンジョンマスターになったと、クチキも思っているんでしょう?」
「ああ、そうだと思っている。」
俺はゆっくりと答える。
「それでも、アクアを追うんでしょ?」
「ああ、もちろん。」
「わかったわ、私も同行する。」
「ありがとう。でも、危険だ。あいつをこの世界に呼び込んでしまったのは俺だ。師匠が命がけでも止められなかったんだ。エナさんまで、危険には晒せない。」
「それはそっくりそのままお返しするわ。危険なのはクチキもでしょう? それに、二人の方が生き残れる確率が上がるわ。私も冒険者よ。それに師匠の敵を討つのは弟子のつとめ。くるなと言うなら、私は私で勝手に行くだけ。」
「……わかったよ。よろしく……」
その時だった、再び激しい振動が館を襲う。
「今度はなに!」
俺は重力軽減操作と身体能力任せに、強引に移動すると、館のドアを開け放つ。
ちょうど正面の位置に、こちらに歩いてくる人影が見えた。
それは、超巨大な騎士スライムであった。
街を破壊しながら近づくそれ。剣を振るい、盾を叩きつけ進む度、立っているのもやっとな振動が、ダンジョンを揺るがす。
それが七体。館を取り囲むように、徐々に包囲を狭めながら近づいて来ていた。
「どうやら、すんなりとアクアのもとまで、行かせてはくれないみたいね。」
「そうだね。初手で完全に殺しにくる所とか、そつが無さすぎで嫌なやつ。」
江奈は銃を改めて抜き放つ。俺は江奈に答えながら先ほど手にしたトンカチを構えた。