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イド注入

 ゆっくりと引き金のない銃に刻まれた刻印を指でなぞる。


 それに合わせて、自身の中のダンジョンの因子を起動する。


(これは! イドを送り込める?)


 これまで弾かれたり、強制的に吸い出されていたイドだったが、自身のダンジョンの因子を通すことで、イドを引き金のない銃にコントロールして送れる感覚がする。


 俺は自分のその感覚のままに、始めはゆっくりと、徐々に勢いよくイドを刻印を通して流し込み始めた。


 どんどんと、まるで底なしの穴に水を注ぐかのように吸い込まれていく俺のイド。

 それに伴い、最初は刻印が、そして徐々に引き金のない銃全体がうっすらと光を帯びていく。


(まだまだ足りないのがわかっちゃうんだが。仕方ない、イド・エキスカベータ生成!)


 俺はイドの枯渇前にしぶしぶイド・エキスカベータを発動する。

 汲み取られたイドをただひたすら刻印へと注ぎ続ける。

 汲み出す量と注ぎ込む量とが釣り合い、まるで俺自身はただのパイプになった気分がする。


 その様子を心配げに見守る江奈。

 師匠は緊張感を漂わせて身構えている。


 そしてついに、その時がきた。

 引き金のない銃に、イドが満ちた事が刻印越しに伝わってくる。


 一層煌めく光を放ちながら、ゆっくりと引き金のない銃が浮かび上がる。

 放たれた光が収束するように銃に絡み付き、銃を覆う。

 まるでそれは光の繭。


 繭が点滅を繰り返す。その中身が、ぐにゃぐにゃと蠢く様が、影となりうっすらと映る。


 その時だった。

 俺のポケットが大きく膨らんだかと思うと、一気に溢れだす。

 その衝撃で、俺は勢いよく横方向に吹き飛ばされる。


 地面を強制的に転がされるが、何とか止まる。顔をあげてみれば、ちょうど視線の先は、俺が先程まで立っていた場所。

 そこには、アクアの姿があった。


 アクアはまだ粘体のままの両腕を勢いよく伸ばすと、かつて引き金のない銃であった光る繭をそのままその手に包み込む。

 アクアの粘体とかした手を通して、光る繭が鈍く輝く。


「結束っ!」


 師匠の怒鳴り声。

 それに反応し、画伯マスカルの描いた結界のペイントが、アクアの足元で発動する。

 地面に描かれていた絵の具が、無数の帯状の紐と化す。一度長くピンと伸びたかと思うと、次の瞬間、帯が次々にアクアに絡み付いていく。カラフルな帯が全方位からアクアの姿を包み込んでいく。


 もしこれが、人や、銃であったなら。

 画伯マスカルの結界は高位のモンスターですら、少なくとも足止めにはなったであろう。

 しかし、残念なことに粘体の体を持つアクアには、ほぼその意味をなさない。

 帯状の紐が絡む度に、それはアクアの体に沈み、そのまま突き抜けてしまう。

 そして巧みに光る繭を体内で移動させながら、マスカルの結界を抜けると、何事もなかったかのように歩き始めるアクア。

 その目は、ただ出口のみに向いていた。


 突然の出来事に呆然としていた俺は、こちらに一瞥すら寄越さず歩き始めたアクアの姿に、確信する。


 こいつは敵だと。


 俺は裏切られたのだと。


 それは本能。それは直感。

 闘争に明け暮れていた生命としての根源が、ただひたすらに叫びをあげる。


 戦え、と。


 溢れ出す激情のまま、俺はアクアに向かって駆け出す。

 ほぼそれと同じくして師匠と江奈の銃が撃ち出される。

 アクアは江奈を一瞥する。指を江奈の放った銃弾に向けると、アクアの指先の一部が粘体化し、切り離され、飛び出していく。


 江奈の七色王国(セブンキングダム)とアクアの粘体が空中で次々にぶつかる。 

 まるで花火のように、空中で氷や炎の花が咲く。

 それはすべてアクアの狙い通り。

 江奈の放つ七色王国はすべてアクアの粘体に阻止されてしまう。


 しかし、その隙をつくかのように、師匠の不可視の銃から放たれた一射絶魂(ワンショットアセンション)がアクアの胸を穿つ。


 大きく抉れとられる、アクアの胸部。そこには大きな穴が空いていた。


(やったか?)


 それは定番のフラグだったのだろう。アクアは何事も無かったのように歩き続ける。

 ぬるんと、アクアの体の残りの部分が粘体となり、胸部に空いた大穴を埋める。


「魂を持たない化け物め……」


 師匠の悔しそうな声を微かに背後に聞きながら、俺は追い付いたアクアの顔面目掛けて、左腕のカニさんミトンを突き出した。














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