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修練

 マスター・オリーブハイブはまた一口、お茶を口に含むと、再び話し始める。


「朽木さんも、ダンジョンの因子のことは知っているだろう。冒険者ならば、誰しも教えられることだからね。それで、朽木さんは実際にはどこにあってどんな形をしていると思うかね?」


 俺はドキドキしたまま、ゆっくりと答える。


「モンスターが持っていますよね? 形は、魔石とか?」


 マスター・オリーブハイブは軽く頷き、話し続ける。


「まあ、実際にそれがどんなものかは誰にもわかってなんだがね。我々ガンスリンガー達は、それは一つの穴のような物だと考えている。モンスターの存在自体が、この世界に開いた穴なんじゃないかとね。そして、魔法銃を持つものは、その穴は小さいながらもダンジョンの特別な武具、この場合は自分の愛銃にも宿っていると感じているのさ。」


 そういって、マスター・オリーブハイブはそっと自身の膝の上を優しく撫でる。どうやら見えないマスター・オリーブハイブの魔法銃を撫でているようだ。


「もちろん、ごく僅かな物だから、ステータスを開いたり、スキルを使ったりすることは出来ないのだけどね。でも、魔法銃を使うガンスリンガーは、人一倍ダンジョンの因子に敏感になっていくんだよ。」


 俺は、その言葉を聞いて、いくつか得心がいった。ここに来る途中の宿で、どうして江奈があんなに素早くモンスターの存在に気がついたのかちょっと不思議だったのだ。

 そのまま俺はマスター・オリーブハイブに聞いてみる。


「それで、初めて握手した時に、喰われているって言ったのは……」


「そう、朽木さんはダンジョンの因子の気配がしたからね。でも、その引き金のない銃はまだ、使えていないようだし。それで別のダンジョン産の特別な武具を使っていると考えたのさ。真のガンスリンガーの修練は、ダンジョンの因子の侵食に対する物になる。江奈も朽木さんの気配の変化に気がついて心配したんだろ。」


 俺は、そこまで聞いて、自分の装備品化のスキルのことがバレた訳ではないと知って、そっと胸を撫で下ろした。


「江奈さん、そんなに心配してくれてたんだ……。ありがとう。」


「ふん。」


 照れた様子の江奈に、俺とマスター・オリーブハイブは微笑ましげに笑う。

 その間にも俺は思考を続ける。


(ダンジョンの因子の侵食って、多分、精神汚染率のことかな。俺はステータス画面で見られるけど、もしかしたらそれもどれかのスキルの影響……。まあ、十中八九、鑑定っぽい。時間経過で減少するって感じだけど、ガンスリンガーの修練で意識的に減らせるならありがたいな。……やってみるか、修練。)


 俺は居住まいを正してマスター・オリーブハイブに向き直る。

 ゆっくり頭を下げながら、決意を込めて、宣言する。


「マスター・オリーブハイブ、いえ、師匠。よろしくご教授のほど、お願い致します。」


「はいよ。それじゃあこれからは弟子として扱うからね。名前も竜胆と呼び捨てにする。江奈は竜胆の姉弟子になる。最初は任せるからね、江奈。」


「はい、師匠。はじめはピクニックからね。」


 無言で頷く師匠。

 俺は、ピクニックという和やかな単語が何故か空恐ろしく聞こえてきた。


 そして翌日、俺と江奈は、ピクニックに来ていた。

 場所はダンジョンの外、俺たちがリアカーに載せられて登ってきた山道のさらに山側の奥。

 焔の街の入り口から脇にそれて、一時間ほど歩いた場所である。

 持ち物は装備品以外は、水筒に水と、携帯食だけ。


 目の前には、岩と白い花がぽつりぽつりと咲き広がっている。多分、高山植物なのだろうが、名前はわからない。


「美しい景色だね?」


 俺は何か裏があるんだろうなと恐る恐る、江奈に声をかける。


「そうね。それじゃあ、早速説明するわね」


 そういって、江奈は花畑の先、山の中腹に見える大きな岩を指差す。


「あの大きな岩が見える?あれが中岩。あの中岩まで行って、ここまで帰ってきて。途中、植物に触れたらやり直し。」


 俺は中岩と言われた場所を仰ぎ見る。大分遠そうだけど、何とか行けそうかなと、思った俺の気持ちを読み取ったのか、江奈が被せぎみに言い足す。


「1日10往復出来たら合格だから。日の出てる間ね。それじゃあ頑張って。」


「じゅ、10?!」


 ぽかんとする俺を置いて、そのまま江奈は立ち去ってしまった。

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