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引き金のない銃

 江奈が無言で俺のことを肘でつついてくる。


 俺は荷物から引き金のない銃を取り出すと、そっとマスター・オリーブハイブの目の前に置く。


 無言で、引き金のない銃を見つめるマスター・オリーブハイブ。

 そっと右手をかざし、銃身に触れるかどうかの距離でゆっくりと手を添わせるように動かす。


 そのまま手を引っ込めるマスター・オリーブハイブ。


「この事は?」


 マスター・オリーブハイブはまず、江奈に向かって確認するように問う。


「まだ、誰にも。」


 言葉少なに答える江奈。


 俺に向き直って、真剣な眼差しを寄越してくるマスター・オリーブハイブ。わずかな間。瞼を一度伏せ、しかしおもむろに話し出す。


「これは、インテリジェンスウェポンだね。かつて、似たようなものを一度だけ、見たことがあるよ。それと同じ気配がする。」


「インテリジェンスウェポン……ですか。あの、実はこれ、最初見つけた時は本だったんです。それが、表紙の刻印に触れたら、イドを吸い取られる感覚がして。気がついたらこの形状に。それで、出来たら本の形状に戻したいんです。」


 俺は、マスター・オリーブハイブに答える。本の中身が、後から思い返せば思い返すほど、気になって仕方なかった。

 何か、大切な情報が載っていると言う予感がして、仕方ない。


「ふむ……。」


 マスター・オリーブハイブは目を瞑り、何か考えている様子。

 ゆっくりと目を開けると、静かに語り出す。


「まずは、インテリジェンスウェポンの説明からしようかね。その名の通り、まるで知性があるかのような振る舞いをする武器のことだ。と言っても、実際に話したりするわけではない。この銃は、所有者を決めているみたいだね。それ自体は特異な武具にはままあることなんだが……。所有者のイドを吸って変形するなら、インテリジェンスウェポンで間違いないね。」


 一度お茶を飲むマスター・オリーブハイブ。


「それで、本の形状に戻したいんだったね。それには、完全にこの銃を従える必要がある。そうすれば、朽木さんの意思に従って自由に本と銃と形を変えてくれるだろう。」


「従える、ですか。」


 俺は考え込むように呟く。


「そう。ただ問題は何を持ってこの銃に主人と認めさせるか、だね。何せ、ほとんど前例が無いからね。」


 そこで江奈が口を挟む。


「師匠、師匠は前に一度インテリジェンスウェポンを見たことがあるって。それはどんな武器だったんですか?」


「そうさね、あれは悲惨な結果になってね。皆、あまり話したがらないから、江奈ぐらいの世代のガンスリンガーは知らないかもね。かつて、ダンジョンの宝箱から姿を変えられる銃を手に入れた男が居たのさ。それは美しい銃だった。気品と力に溢れていてね。手にした男も、一発でその銃に惚れ込んでしまってね。でも、いつからか、男はその銃にとりつかれたみたいになってしまってね。色々あったんだけど最終的には手遅れになってしまったのさ」


 遠い目をするマスター・オリーブハイブ。その瞳には過去の映像が写っているかのようだった。

 顔を見合わせる俺と江奈。

 江奈の目が細められる。

 しぶしぶ切り出す俺。


「それで、どうなったんです?」


「ああ、男は人が変わったようになってしまってね。ついに狂ったように銃を乱射しはじめて。幾人も犠牲が出て、最後には男も撃ち殺されてしまったよ。」


「どうして、そんなことに?」


 江奈の声も暗い。


「はっきりとしたことは何も。そのインテリジェンスウェポンも男が死ぬと、失われてしまったのさ。どうして男がそんなことになってしまったのかは、完全に闇のなかさね。」


 重たい空気がテラスを包む。


「一つ言えるのは、男は銃を制御しきれなかったんじゃないかと思っている。そういう意味では、まずは手始めにガンスリンガーの修練をしてみるかい? 朽木さん、ダンジョン産の、特別な武具を使っているだろ。どちらにしても修練をした方がいい。江奈もそう思ったから朽木さんをここまで連れてきたんだろ?」


「え……。どういうことです?」


 俺は江奈とマスター・オリーブハイブを交互にキョロキョロ見てしまう。内心では、自分の特異な装備品化スキルのことをどうして知っているのかと、心臓がばくばくしていた。








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