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クイックドロウ

 マスター・オリーブハイブの右手には、抜き放たれた魔法銃。そのマズルからは魔法弾の光の粒子の残りが、たなびく煙のように飛散していた。


 俺を狙った必殺の一撃は、早撃ちされた魔法弾だったようだ。


(俺の、脳のギアの一段速くなった認知速度よりも速い、早撃ちって……。運良く飛行スキルを発動していたけど、避けられたのはただラッキーだっただけだな、こりゃ。)


 俺は飛行スキルで天井に張り付いたまま、マスタークラスの驚異的な実力の一端を目の当たりにして、おののいていた。


 マスター・オリーブハイブは右手の魔法銃をくるくる回して光の粒子を散らすと、そのままホルスターに戻す。

 すると魔法銃はホルスターごと、まるで透明になったかのように消え失せる。


 俺はその様子に目を疑う。


(消えた! ホルスターにしまうと消えるのか? 不可視の魔法銃とか、恐ろしすぎる……。技の出が完全にわからないじゃん。)


 俺が、ブルッと震えていると、マスター・オリーブハイブが声をかけてくる。


「いい反応速度だ。久しぶりだよ、初撃をかわされたのは。さすが江奈の選んだ人だね。歓迎しよう、ようこそ、焔の街へ。」


 俺はどうやら攻撃は終わりかと、恐る恐る天井を離れる。

 ゆっくり床に降り立つ。今になって思うと、スキルを2つも使って見せてしまったが、特に言及されることもなかった。


「全く、肝が冷えましたよ。そして、エナさん、笑いすぎ。」


 俺は後半部分をマスター・オリーブハイブの後ろでさっきからずっとニヤニヤしている江奈に向かって言う。


 無言で、そっぽを向く江奈。

 マスター・オリーブハイブが答える。


「謝りはしないよ。かわりにお茶でもご馳走しよう。二人とも、こちらにおいで。」


 マスター・オリーブハイブも、俺の愚痴みたいな言葉にニヤリと笑うと、右足が悪いとは思えない速度ですたすたと階段を上っていった。その笑顔は、江奈のものと瓜二つであった。


(さすが師弟、笑い方が似てる。そして、足が悪いのはブラフだった?!)


 江奈が階段に駆け上がって手を引いて降りてきたのも演技だったのかと、ジト目で江奈を見る。

 江奈は軽くスルーすると、無言で階段を上がるよう促してくる。俺は江奈に続いて階段を上がる。

 しばらく進むと、中庭を望むテラスのような場所に出た。


 誰もいないテラスには、椅子とテーブルが設置されている。

 勝手知った様子で、江奈は席につく。

 俺も、おずおずと席につく。


 しばらくして、マスター・オリーブハイブ自ら、お茶のセットの乗ったカートを押してテラスに入ってくる。


 パッと立ち上がった江奈が手伝い始める。

 俺も立ち上がりかけるが、マスター・オリーブハイブに目線で座っているように促され、しぶしぶ腰を下ろす。

 二人が話しながら準備をする様子を、見るとはなしに眺めながら座っている俺。


「師匠、またお手伝いさん辞めさせたんですか?」


「ふん、身の回りのことなら自分で出来るからね。全てが修練さ。」


「変わらないですね。」


「お茶、江奈が入れてみるかい?」


「えっ、いいんですか?!」


 喜色に染まる江奈の顔。


「ああ、腕を上げたんだろ。」


「えへへ。」


 何が嬉しいのか、綻んだ顔を引き締め、江奈がお茶をいれ始める。日本とは違う作法で入れられるお茶。江奈の動きは非常に流麗で、淀みなく一つ一つの動作が次へと繋がっていく。まるで舞か、巧みな格闘術のようなその動きに俺が魅了されている間に、マスター・オリーブハイブはお茶菓子のような甘そうなものをテーブルに並べていく。


 浅めの茶器に半分ほど入れられたお茶が俺の目の前に差し出される。

 香りが柔らかい。


 全ての準備が終わったのか、そのままお茶会が始まる。


 マスター・オリーブハイブがお茶を飲んで一言。


「うん、陰陽の調和が取れている。」


 江奈が顔を赤らめ、目を伏せる。

 その後は基本的には江奈とマスター・オリーブハイブが互いに近況報告をしながら、たまに江奈が俺にも話をふってくる。


 そうしてお茶も無くなってきた頃、本題とばかりに、居ず舞いを正した江奈がマスター・オリーブハイブに切り出した。


「師匠、見てもらいたい銃があるんです。」




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