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焔の街

 原チャ二台があっさりと立ち去っていく。


 俺は二人分の荷物を担ぎ上げ、ダンジョン『焔の調べの断絶』の金属の扉に向かう江奈のあとを追う。


 いつも俺が潜っているダンジョンの数倍の大きさの入り口。それすべてを覆う金属の扉はそれだけで偉容と威圧を放つようだった。


 昔受けた講習を何故か思い出す。ダンジョンの入り口の大きさは、ダンジョン自体の大きさに比例すると信じられていますがそれは迷信です、という講師の声が甦る。

 これだけの偉容。多くの人が、どうしたって中のダンジョンも大きいと思ってしまうだろう。


 すたすたと軽快に進む江奈。

 いつもより軽やかな足取りから、江奈の機嫌が良いことがなんとなく伝わってくる。

 江奈は迷うことなく、扉に作りつけられた人間用とおぼしき扉に近づく。結構な人が列を作っている。ダンジョンの出入り口では見慣れた風景に、俺はどこか安心する。


(意外とガンスリンガー以外の装備の人もいるな。)


 キョロキョロする俺の順番もすぐにくる。俺たちはそのまま扉を開けて中へ入っていく。


(門番とか、記録係は特に居ないのか……。)


 中に一歩踏み込む。すぐに、ガヤガヤとした喧騒に包まれる。


 目の前に、街が広がっていた。


「大きい……」


 入り口すぐが小高い丘のようになっており、ダンジョンの中に作られた街が一望できる。

 そこは、これまで見たどんな街とも異なる様相を示していた。

 ダンジョンの床一面を家屋や店舗とおぼしき建物が占め、それでも足りないとばかりに、ダンジョンの壁にもびっしりと建物が張り付くように建てられている。

 のんびりと目の前を行き交う人々。多様な人種。

 ダンジョンの中とは思えないそのゆったりとした動きは、しかしよくよく見れば、皆が手練れのように見えてくる。ガンスリンガー独特の歩行法なのだろう。その歩みは、江奈の歩き方と通じるものを感じさせる。

 歩きながらの射撃を想定した重心の上下の少ないその歩みは、一見優雅に見え、そのせいで街行く人々の動きがゆったりしているように錯覚させられる。


 そこかしこに、銃を携帯していない者や、時には子供の姿も見える。


 俺が気がつくと、江奈がすたすたと先に歩いているので、急ぎ追いかける。


「どうだ、焔の街は? 良いところだろ?」


 俺が追い付くと江奈が声をかけてくる。


「ああ、色々驚きがいっぱいだよ。ところで、焔の街の由来はダンジョンの名前だよな? そもそもの『焔の調べの断絶』の由来は何なの?」


「ああ、ここじゃあ火が使えないんだ。このダンジョンの特性だな。それで、火薬の銃は不発になる。まあ、魔法銃の産出が多いのと関係しているんだろう。」


「なるほど、それでか。でも、それじゃあ生活めんどくさそうだね。」


「昔は確かに調理も加熱の魔道具を使っていたらしいな。でも今は殆どオール電化だ。不便なんてないさ。」


 江奈はそういえばと言った顔でこちらを見る。


「クチキは聞いたか? 私たちのいつも潜ってるダンジョン『J12』も正式に名称が決まったらしいぞ。」


「へぇー。ついに番号呼び卒業か。めでたいね。」


「他人事みたいに言ってるが、お前の報告を元に命名されたんだぞ。」


「あっ、そうだよね」


 俺はなんだか恥ずかしくて、でも少し嬉しい複雑な気持ちになる。不慮の事故とは言え、最深部まで踏破したのだ。ちょっとズルしたのが後ろめたいような、誇らしいような不思議な感じだ。もちろん、諸々の事情があって一部の人間しか知らない事なので大っぴらには出来ないのだが。


「それで、なんという名前になったんだ?」


「『逆巻く蒼き螺旋』だそうだぞ。」


「あー。」


 俺は最深部にいたスライムや羽付きトカゲのブレスを思い出して少し顔をしかめる。


「まあ、妥当な名前かもね。」


 俺たちが喋りながら歩いている横を電動自転車らしきものが何台も通りすぎていく。

 どうやら本当に電気の街らしい。


「さあ、着いたぞ。ここが師匠の家だ。」


 そうして歩いている間に、目的地に到着したらしい。目の前には周囲と比べて一際大きく立派なお屋敷と呼ぶような建物が鎮座していた。

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