本山へ
俺は今にも閉じそうになる瞼を必死に開けながら、ガタガタと揺れ続けるリアカーの上で必死に荷物を押さえている。
一度、あまりの眠さにうとうとしてしまったときに、一際大きな段差で荷物が跳ね上がり、そのまま道に荷物が散乱する事態に。
あの時の皆のイライラとした顔が閉じかけた瞼の裏に映り、何とか睡魔と戦い続けている。
この、長く厳しい戦いも、ようやく今日で終わるはずだ。
高度も上がり、酸素が薄くなってきた空気の中、最後の試練とばかりに俺は気合いを入れる。
眠気覚ましに、本日何度目かもわからない景色を眺める。道の片側、リアカーのすぐ横は崖になっている。今荷物を落とせば拾うのは困難を極めるだろう。
始めの内は恐怖を感じたこの景色も、慣れとは恐ろしいもの。ここ数日で眠気ざましにもならなくなってきた。
思いは自然と数日前の襲撃へと移る。結局、敵の正体は不明だった。手続きをして海外でも使えるようにしてあったスマホで調べても該当するようなモンスターの情報は皆無。そして、装備品化しなかったことを考えても、ただのモンスターとは考えにくい。そして、死骸が残らない死に方。
俺はアクアが握りつぶした死骸が、粒子のようになった場面を見て、最初はてっきり装備品になるとばかり思った。
それもそもそも、俺が倒していないから勘違いだったのだか。しかし、確かに粒子のようになり、なにやら四角い形状を取りかけたように見えたのだ。まるで、アクアのモンスターカードのような……。
俺がそこまで考えたちょうどその時、一層激しい揺れととともに一気に視界が開ける。
これまでひたすら登り続けてきた道。
その道が大きく曲がり、下り始めた。
そのまま、切通しのような、左右切り立った崖の間の底にある道をリアカーを牽いた原チャ二台が、エンジン音を響かせ下っていく。
続いた登りで青息吐息だったエンジン音も久しぶりの下りで調子を取り戻したのか軽快に響く。
俺は久しぶりの目新しい景色にキョロキョロする。その時には先程まで考えていたことはすっかり頭のすみに押しやられていた。
V字に広がった切通しは、左右の壁は近いが、上が広くあまり圧迫感を感じさせない。
江奈の声がエンジン音に混じって響く。
「ここを抜けたら本山よ!」
その声が合図と言うわけではないが、ちょうど切通しを抜ける。
開ける視界。
そこには一際大きな岩の門があった。
巨大な扉。金属で出来ているであろうそれは、鈍く輝き武骨な偉容を放っている。その周りの縁取りはまるでダンジョンの入り口のような形状をしており、扉とちぐはぐな不思議な印象を受ける。
「エナさん、これって……。」
原チャの運転手二人に声をかけバーツを渡していた江奈が振り返り答える。
「ええ、ダンジョンよ。ガンスリンガーの聖地にして修練場。最古のガンスリンガーが産まれた地であり、魔法銃の最大の産地。数多あるガンスリンガーの流派全ての本山たるダンジョン。ようこそ、『焔の調べの断絶』へ。」