裏道
俺は黒龍のターバンを装備し直し、飛行を発動する。
再び現れる魔法陣と、そこからにょきにょき生える漆黒の羽。
俺が滞空するのを確認すると、アクアは俺を固定していた腕を離す。
そして、アクアは、その右手を握りしめる。
ぐわっと一回り以上、拳が膨らむ。腕を大きく振りかぶり、足元の塔の壁に、渾身の拳を叩きつける。
爆発音と間違えるぐらい激しい音と共に、もうもうと砂埃がたちこめる。
砂埃がはれると、そこに塔の壁に空いた大穴が現れる。そこからするりとアクアが潜り込むと、俺も後に続く。
中はがらんとした空間で、内壁沿いに螺旋状の階段が上下にどこまでも延びているように見える。
「羽付きトカゲが音にひかれてくるの。一気に下に向かうの。」
俺に掴まってくるアクアの右手を取る。
俺は螺旋状の階段から飛び立ち、塔の真ん中の空いている空間を一気に下降していく。
ちらりと振り返ると、上空には無数の黒い影。
(さすが羽付きトカゲの巣、ものすごい数だ! あんなの相手にしてらんねぇな。)
俺は気合いを入れて加速する。
すぐに、一階部分の床が見えてくる。
ここにもシアン化合物のガスが溜まり、薄青色に染まっている。
アクアが液状化し、俺の全身を飲み込む。
俺も慣れてきたもので、完全にアクアに覆われてしまう前に、思いっきり息を吸い込んでおく。
そのまま一気に、シアン化合物のガスに突っ込む俺とアクア。
急制動をかけ、床に着陸すると、羽を消す時間も惜しんでアクアに包まれたまま、急いで先ほど鑑定で見た壁際に向かう。
しかし、目当ての場所は、なかなか見つからない。
(えっと、確かここら辺のはずだけど。)
視界が薄青色のガスで悪い。
俺が迷ってある間に、上空には追い付いてきた羽付きトカゲ達が、塔の内壁沿いの螺旋階段にどんどん着陸しはじめる。ぐるりと羽付きトカゲ達が並ぶ。
着陸した個体から、口を開け、こちらに狙いを定めてくる。次々に薄青色のブレスを吐き出し始める羽付きトカゲ達。
「ガスの濃度が上がってるの! 毒の処理が追いつかない! 急ぐの!」
いつも無表情なアクアの、珍しく焦った声に急かされ、たちこめるシアン化合物のガスこの中、俺も急いで壁を探る。
(あった!)
俺は壁に彫られた人型の像をようやく見つける。年月が経ち、崩れ始めていたせいで、なかなか見つけられなかった。
俺は急ぎリュックから皮装の本を取り出す。
俺の意思を読み取ったアクアが、俺の手から本を受け取り、人型の像の顔の部分と思わしき場所に、本をかざす。
すると、皮装の本の刻印が一瞬、カッと光を放つ。
その光を受け、人型の彫像の欠けた瞳も呼応するかのようにチカチカと瞬く。
次の瞬間、俺たちの立っていた床が消失する。
落下する俺たち。
羽を消さずにいたことが幸いし、すぐに落下の勢いを消す。
急ぎ上を見上げると、すでに床は閉じたのか、ガスが侵入してくる様子はない。
(何とかなったーっ!)
「何気を抜いてるの! ここからが本番なの!」
俺の見た鑑定結果を読心で読み取り、ここがどこだか知っているアクアに注意されてしまう。
アクアがぬるっと俺の身体を覆うのを止め、俺の右手にぶら下がるように粘体の体を移動させる。俺は止めていた息を吐き出し、大きく深呼吸をすると、アクアに反論する。
「わかってるって! 地下闘技場だろ?」
俺のその声がフラグだったのか、闘技場の中央に大きな魔法陣が突如、展開される。
すぐに魔法陣の光が消え、代わりに魔法陣のあった場所には人影が見える。
そこには、一振りのブロードソードを構えた、巨大な鎧の騎士が立っていた。