鑑定の真価
俺が身体の固定具合を再度確認していると、アクアから声がかかる。
「クチキ、鑑定のデータを処理する器官の作成、イド・エキスカベータと併用するの。」
「え、どういうこと?」
アクアは横向きに壁に立って、上目遣いでこちらを見ながら話す。
「それだけイドの消費が激しいの。鑑定で取得できる情報量が多すぎると、データ処理の器官が過剰稼働して壊死していくの。それを常に回復させるのにイド生体変化を使い続けるの。だから常にイドを補充しながらにする必要があるの。」
「……ねえ、アクアは何でそんなことを知っているの?」
「秘匿事項なの。」
目を伏せ言葉少なく答えるアクア。
「わかったよ。まあ、助かっているのは事実だしね。」
俺がアクアに答え、会話が途切れる。
俺は鑑定を使うにあたって、息をゆっくりと整え始める。手には深淵のモノクルを構え、気合いが入ったところで、イド・エキスカベータを使用する。
そして、極彩色の精神汚染が少しでも少ないうちにと、急ぎデータ処理器官を脳内にイド生体変化によって作り出す。
イド・エキスカベータと異なり、明らかに脳内を圧迫させるような感覚に襲われる。
当然、痛みもない幻覚なのだが、物質的な質量を持った何が、頭の中でどんどん膨らんでいく。
同時に、集合的無意識から汲み取られたイドによる精神汚染が始まる。
極彩色に染まる視界の中、俺は急ぎ深淵のモノクルを左目にはめる。
左目を通して、膨大な情報が流入してくる。しかし、データ処理器官をかませることで、それは取捨選択され、フィルターで濾された無害な情報となって脳内で再生される。
同時に熱を持ち崩壊しはじめるデータ処理器官。その欠損率も鑑定の効果で手に取るようにわかる。
(こんなに早く……)
俺は急ぎイド・エキスカベータで汲み取ったイドを使い、データ処理器官の修復を行う。
その間に、ダンジョンの情報を出来るだけ取得する。
(魂の変容率が……、精神汚染も6%を越えた。スキル、全て解除っ!)
俺は急ぎ深淵のモノクルを外す。初めて鑑定を使った時のような死にそうな痛みに襲われることなく、無駄な情報に振り回されることもなく。無事に必要な情報を手にいれることに成功した。
俺は自身のステータスを開く。支払った対価を確認するために。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆
年齢 24
性別 男
オド 24
イド 11
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
革のジャケット
カニさんミトン (スキル 強制酸化)
なし
Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)
スキル 装備品化′
召喚顕在化 アクア(ノマド・スライムニア)
魂変容率 0.7%
精神汚染率 5.9%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
鑑定で見た限りでは、精神汚染はリミットを越えなければ、徐々に自浄作用で減少するらしい。
(問題は魂変容率だ。これは増えるばかりだからな。安易にデータ処理器官を生成しての鑑定は使えないな。)
黙ってこちらを見ていたアクアが話しかけてくる。
「それで、どちらにするの?」
当然すでに鑑定して俺が得た情報を読心しているアクアは、俺のまだ決断していない部分について聞いてくる。
そう、実は扉は2つあったのだ。鑑定で見えたことをまとめると、まず今、居るのは39層。
そして、正規の38層に向かう扉は、ちょうど今居る塔を中心に、俺たちが40層から上がってきた扉の点対称の位置に存在する。もちろん今はシアン化合物のガスの海に沈んでいる。しかし、真上から飛行で突っ込めば、アクアの毒処理の限界までには扉にたどり着けるはずだ。これは比較的容易に次の階層へと行ける道。
そして、もう一つ。裏道がこの階層には存在した。
鑑定によると、それは危険な道だが、一気に上層まで跳べるらしい。
俺はしばしの沈黙の後、意を決してアクアの方を見る。
読心で俺の思考を全てトレースしていたアクアは、俺の視線を受け、軽く頷いた。