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死か変容か

 俺たちは重力軽減操作をかけ、滞空している。

 足元は一面の薄青色のガス。


 まるで雲海のようなそれは、ほとんどの生命に取っては致命的な危険を有している。


 そんな危険物が漂う上空で、俺は沈んでいった羽付きトカゲ達の魔石を惜しんでいた。


(こんなに広がっていて、しかもダンジョンだけに、実際は密閉空間。回収は無理だろうな……)


 俺のそんな内心の愚痴にアクアが答える。


「クチキ、俗物なの。」


「ぞ、俗物!? さすがにそれはひどくない、アクアちゃん。俺は一冒険者として、当然の心配をしているだけだからね。だって、ここが何層かわからないけど、絶対高額魔石だよ! もしかしたらネカフェ生活から脱出できるかもだよ!」


「ダンジョンから脱出出来るかも不明なの。そんな心配無意味なの。」


 しかし、そう言いながらも、無表情でアクアは手を差し出してくる。その手には子供の握りこぶしぐらいの大きさの黒い魔石が一つ。


「それにアクアちゃんは、ひどくないの。最後の羽付きトカゲの脳天ぶち抜いたら、ちょうど魔石あったから、引き抜いておいたの。はい、これ。アクアちゃんに感謝するのだ。」


「おおっ。大きい! ありがとう! ここんなに大きな魔石、絶対オークション案件じゃん。数百万はするよ絶対。それだけあれば、保証人なしでもアパート借りられるかも……。」


 俺は俗物呼ばわりされたことは綺麗に水に流し、アクアから魔石を受けとる。


「うむうむ。感謝しているなら、今後はアクア様と呼ぶのだー。」


 アクアが調子に乗るので、とりあえず合わせてあげる。


「ははー! アクア様。恐悦至極でございまする。」


 シアン化合物のガスの雲海の上で、手を繋ぎ、浮かびながらそんな茶番を繰り広げる俺とアクア。


 アクアはすぐに飽きたのか、話題を変える。


「さあ、さっさと次の階層に行く扉を探すの。」


「探すったってどうやってさ? しらみ潰しに飛んでみる?」


「クチキ、馬鹿なの? シアン化合物のガスに沈んでいたら見えないの。だいたい、アクアちゃんはもう毒の処理は、いっぱいいっぱいなの。ガスの中を時間をかけて探すとか、こりごり。これ以上アーモンド臭は嗅ぎたくないの。」


 文句を垂れるアクア。


「さっさと鑑定使えばいいの。この階層を鑑定したら扉の場所もわかるの。」


 簡単に言ってくるアクア。

 俺は反論する。


「痛すぎて無理だよ! どんだけ時間かかるかもわからないのに、耐えられないって。」


「じゃあイド生体変化で脳にデータ処理用の部位を作るの。それで完璧。」


「それは……。それで、本当にうまく行くの? それにさっきエラ作っちゃったから、イドの残りが少ないよ。」


 俺が反論するとアクアはため息をつく。


「それなら先にイドを集合的無意識から汲み取ればいいの。」


「集合的無意識って、概念だけで実在はしないんじゃ?」


「アクアちゃんは集合的無意識経由で読心しているの。イドのすぐ下にあるんだから、つべこべ言わずにさっさと汲み取り器官を作るの。」


「そんな、性急な……。だいたいどこにどんなもの作るかわからないと。」


 俺が困惑して答えると、アクアはさらに言いつのって畳み掛けてくる。


「クチキはすでにエラを大して理解しないで作っているの。イド生体変化のスキルにお任せで、データ処理器官もイド汲み取り器官も出来るから心配無用なのだ。」


 何故かどや顔に見えてくるアクアの無表情な顔。


 それが悔しくて俺は反論してみる。


「だいたい副作用とかないの?」


「少し、魂が変容したり、精神が汚染されるだけなの。命に別状はないの。ほら、ダンジョンで野垂れ死にたくないなら諦めて言う通りにするのだ。それか他のアイデアがあるなら言ってみるのだ。」


 どうせそんなものはないだろうと言わんばかりのアクア。


「魂が変容したり精神が汚染されるって大事じゃん!」


 俺は思わず大声で叫んでしまった。



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