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召喚

 押し寄せる情報の洪水。


 俺はさっそく痛みを訴え始めた左目を無理やり開き続け、蒼色のカードを、『ミ』る。


 ぼんやりと二重映しになって、カードの表面に、文字が現れる。


(痛い痛い痛い。何か、文字が出てきた……。痛い痛い)


 俺は加速度的に増加する痛みに耐えながら、何とか文字を読み取ると、投げ捨てるように深淵のモノクロを外す。



「はぁっ、はぁっ、ぐふぅ。」


 息がなかなか整わない。

 戦闘時の極限状態で、魂を削るように発動していた時と違い、落ち着いてこの痛みと情報量に向かい合うのは別のしんどさがある。


「何とか。使い方は。わかった……。」


 整わない息を無理やり独り言で被せて、誤魔化す。


「ふー。ようやく落ち着いてきた。」


 俺はさっそく蒼色のカードを使ってみることにする。

 俺はカードをかざし、『ミエ』たキーワードを唱える。


「深淵の混沌の先。時の灯りの照らさぬ地に生えし不可触の大樹。そは一葉の雫を母とし、父を持たぬ者よ。呼び掛けに応え、鼓動打ちし不定の狭間より顕在せよ。モンスターカード 『アクア』 召喚」


 無事にかまずに唱え終わる。

 一瞬の静寂。

 骸骨の虚ろな眼窩が軽蔑の色に染まる悪夢再びか、と思いかけた、その時。


 カードが突然ぐにゃぐにゃと動き出す。


「うおっ」


 思わず放り出す、俺。


(な、なんだなんだ! 何でカード自体が動くの! 何が起きるかまでは、確かに痛くて『ミレ』て無かったけどさ。普通、もっとこう、光のエフェクトとかでパパーンとかじゃないの?!)


 俺は出来るだけ後退りして様子を伺う。


 カードは不気味な光を発しながら、まるで鼓動しているかのように脈打ち、徐々に膨らんでいく。

 まるで風船か、出来の悪い心臓のようだ。

 血管らしき部分すら現れ、なにやら蒼黒い液体が垂れる。垂れた液体が意思を持つかのようにまた心臓らしき何かに集まってきて、取り込まれていく。


 この度に、かつてカードだった鼓動する物体は急速に大きくなっていく。


 人よりも大きくなり、動きが止まった、と思った次の瞬間。

 その物体はくるりと中身と外身が反転するようにひっくり返る。



 そこには、一見、人間の少女のようにも見える存在が佇んでいた。

 蒼色の髪、青白い肌。真っ青なドレスのようなものを身にまとう少女とおぼしき何かが、口を開く。


「パパパパーン。アクアちゃん、参上だー。」


 それは物凄く棒読みな自己紹介であった。

 感情の全く感じられない口調。ピクリとも動かない表情。


(何で、パパパパーンとか言ってんの? しかも、ちゃん付けだし。苦手なタイプかも……)


「アクアちゃんは、読心撲殺拳の達人なのだー。あんまり失礼なこと考えていると、ぼこぼこなのー。」


 相変わらずの、棒読み。

 しかし、その内容に俺は戦慄する。


(うげぇ、読心って、どこまで俺の考えていること、読まれているの?)


「どこまでもだー。だいたい、クチキはちゃんとMCを鑑定するべきなのー。それで全てがわかったの。なのに痛いのイヤとか、子供なのー。」


(なんか呼び捨てされたし! しかも、めっちゃディスられている?!)


「あー。アクアちゃん?」


「人のこと苦手なタイプかもとか言うやつはディスられて当然なのー。全くこれだから、気分で召喚とかする人間は困るのだ。呼び出されて、狭間を越える苦労も少しは考えて欲しいのー。」


 無表情のまま両手を腰に当てて捲し立てるアクア。

 これが俺とアクアの初めての出会いであった。






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