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脱出に向けて

 意識が浮上する。


 あの後、座り込んだまま気絶するように眠り込んでしまったようだ。

 イドの急速な枯渇は、やはり心身ともに負担だ。


「謎は深まるばかりだけど、今はこれ以上はどうしようもない。脱出に役立ちそうな手掛かりもないし、いったん脇に置いておこう。」


 俺は開いたままだった皮装の本を閉じるとリュックにしまう。


「……腹へったな。」


 代わりに二層で取れた肉を取り出す。


 一切れ、鉈で切り取り、そのまま食べる。


「そのままでも、うまいな。油が乗っていて、甘い。」


 もう一切れ、食べる。


「ほぼ、貝の刺身だ。……醤油が欲しい。」


 俺は残った肉をしまっておく。


「どれだけ脱出に時間がかかるかわからないから、節約しないと。何にしろダンジョン産のものは腐らないから助かる。」


 俺は食べ物を食べ、少し気分が上向いた所で、本格的に部屋を漁ることにする。


「まずはこの部屋の出口を探しますか。」


 そう呟きながら部屋を見回す。

 大きさは八畳ぐらい。壁沿いに本棚らしきものと、朽ちたベッド。そして部屋の中心を向いて置かれた黒檀の机に、骸骨が座る椅子。


 それが部屋にある全てだ。


 とりあえず壁を調べていく。

 軽く拳を握り、ノックするように叩いてみる。


 重たい質感。鈍い反響。


「石かコンクリートか謎の硬い物質ってとこか。どちらにしても突き破るのは無理そう。厚みがかなりありそうだ。」


 そのまま時計回りに手の届く範囲の壁を調べていく。


 どこも変わらぬ質感。隙間すら見つからない。


「これで、手の届く範囲は全部か。」


 俺は次に、皮装の本が置いてあった黒檀の机に向かう。

 ごそごそと漁るが、しかし、もともと引き出しもないシンプルな作りの机だ。何も怪しい所は見つけられない。


「後はベッドと本棚か。ベッドは本当に残骸って感じだよな。」


 俺は両方を見比べ、ベッドの残骸から調べることにする。

 といっても残骸からは何も見つからないのは明白なので、残骸を軽くどかし、かつてベッドだった物の下、つまり床に何かないか見ていく。


(……何もない)


 地下につながる扉などそれらしきものは一切ない。


(後は、本棚か。)


 俺は本棚に近づく。


(作り付けになっているっぽいな。)


 本棚は完全に床と壁に固定されていて動かない。


「壊してもいいけど……」


 俺はしばし迷う。そもそも壊さなきゃ出れない所に出入口を作るとは考えにくい。本棚の破壊はいったん保留することにしておく。


(そういや、何で机の上の皮装の本は朽ちてないのに、本棚にあったものはこんなにぼろぼろなんだろう。ほとんど埃みたいになっている。)


 俺は首をひねって、自らの浅い知識を掘り起こす。


(こういうとき、スマホが使えたらな……。まあ、仕方ない。確かインクが酸化して腐蝕していくんだっけ? もしそうなら、表紙の部分は中身よりも残るはず。)


 俺は改めて本棚を見回す。

 特にカバーや表紙らしきものは残っていない。


(どういうことだろ。紙しかなかったってことか? それは本だったのか。……もしかして。)


 俺は思い付いたことがあり、本棚の棚の埃やら朽ちた紙らしき物体やらをどかし始める。


 もうもうと、立ち上る埃とかつて紙くずだった何か。

 俺は咳き込みながらも棚の掃除を続ける。


(俺の予想が正しければ、きっとここら辺にあるはず……)


「あった!」


 上の段にあって、ちょうど目線から隠れるような場所に、それはあった。

 黒檀の机で見つけた皮装の本を立てて置いたときに、地の部分がちょうど填まるぐらいの形の窪みが。






再度の記載となりますが、本文にナメクジ食を示唆する描写がございます。実際は大変危険な行為となります。フィクションとしてご覧頂けますよう、お願い申し上げます。

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