表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

172/174

反撃と発見

 ひたすら防御に徹する俺の眼下には、善戦を続けるぷにっと達。しかし、百紫芋の部屋から飛び出していった獣達が参戦したことで押し戻されつつある様子。


 ──さすがに実力の高いのが揃っていたのか。引き離してくれているのはありがたいけど、ぷにっと達に助けを求めるのは無理そうだ


 俺はこうなれば仕方ないと怪我覚悟で、反撃を試みることを決心する。


 ──致命傷さえ避ければ、イド生体変化でなんとでもなるはず。まあ、次は瞳が黒く染まるくらいじゃ済まないかもしれないが……


 カニさんミトンによる泡魔法を発動。意識を高濃度の酸の泡の作成にもさく。

 必然的に、一気に上がる被弾率。飛行スキルによる回避ホッパーソードによる防御。さらには酸の泡の作成と。如何に意識を加速させていても、脳の処理が追い付かない。

 俺の四肢を削るように抉っていく白い欠片。全身から血が噴出する。


 しかしその代わりに得た時間で、最大限に濃縮した酸の泡を生成。白蜘蛛のスキルつきの武器を破壊した時以上の濃度の拳大の大きさのそれを、撃ち出す。

 狙うは、百紫芋。


 そのタイミングで、俺も左肩を撃ち抜かれる。

 高速で百紫芋へ迫る、高濃度の酸の泡。


 ──いってぇーっ! だが、とったっ!


 と激痛に苛まれながらも思った時だった。

 ぴょんっと百紫芋を庇うように現れたのはもう一匹の取り巻き。

 小さな愛らしい見た目のラット。

 そいつが、大きく息を吸ったかと思うと、ぷくーと膨らむ。まるで風船のように。小さな手足に、小さな頭のまま。しかし、その胴体部分が、どんどんどんどん巨大化。その巨体が、俺の放った高濃度酸の泡を体でくるむようにして、掴みかかる。

 当然、如何に巨体だろうが溶かしていく俺の酸の泡。実際ラットの巨体はどんどんと、溶けていく。しかし、まるで投げ捨てるように、その巨体を脱ぎ捨てるラット。脱皮ならぬ、脱肉とでも言うのだろうか。見たことも聞いたこともない現象に唖然としてしまう。

 そして酸の泡ごと、横へ飛んでいくラットの胴体部分。その場には元のサイズのラットと、無傷の百紫芋、そして脱ぎ捨てられ溶けていくラットの元胴体。

 元胴体は巨大な溶けかけの肉塊となって部屋の壁に大穴をあけ、外へと落下していった。


 ──なんだよ、そんなの、ありかっ。もう一匹の取り巻きは防御用だったわけか。


「残念だったな、小生の対策は万全よ。先程のが貴殿の切り札か。あの程度、楽勝楽勝っ。しかししぶといの。どれどれ。せっかくだ。この式神らしきものを使ってみるかの」と勝ち誇った顔で、手にした第一の喇叭ちゃんのモンスターカードを掲げる百紫芋。


 俺は怪我の出血だけではなく、顔面から血の気が引くのを感じる。阻止しようにも止まらない黒豹からの攻撃。使えなくなった左腕を庇うようにして再び右手でホッパーソードを振るう。


 ──イド生体変化の回復が! このままじゃ阻止しようにも追い付かないか?!


 そうこうしている間にも、百紫芋がモンスターカードの召喚の文言を読み上げ終えてしまう。


 広がる、白銀の閃光。


「いえーい。貴方の世界にエントロピーを御届け。第一の喇叭ちゃん、また来ちゃいました~。て、あれー? なに、あんた?」


「おお! 素晴らしい力の奔流! さあ、あの朽木竜胆という男を殺すのだ」と嬉々として指示する百紫芋。


 何故かそれを冷たい瞳で見下ろしていた第一の喇叭ちゃんは、ぷいと顔を背ける。


「やだねー。キモっ。まじキモっ」と吐き捨てると、床に穴を空けて塔の下層へ飛び去って行った。


 ポカンとする百紫芋。


 第一の喇叭ちゃんの不可解な行動。しかし、取り敢えずこっちを攻撃して来ないでいなくなってくれたことに心底ほっとする。


 ──どこへ行ったか気にはなるが……。たぶん最初に召喚した冬蜻蛉に命令権みたいなものがあるんだろうな。本当に良かった。ここで前みたいなメタンハイドレートの雹とか降らされたらかなわない。


 その間もマイペースなのか、止まらぬ黒豹からの攻撃。俺は攻撃を一時諦め、左肩の穴をふさぐことを優先。


 建物の周りを旋回するように飛び回り、さらにホッパーソードで攻撃をはじく。

 黒豹は建物の壁を突き抜くようにして白い欠片を正確に俺へと当ててくる。


 ──ぐっ。また刺さっ。いってぇ……


 それでも防ぎきれないものが全身に徐々に刺さり始める。どうやらこの白い欠片は、骨製のようだ。回復が間に合わずに刺さったままの欠片を見て、ようやく素材を理解する。


 少しでも防御のたしになればと、俺は建物の壁の残っている方、残っている方へと飛び、逃げつづける。しかし黒豹は何の躊躇いもなく壁越しに俺を撃ち抜こうと骨の射出を続ける。

 さんざん悪態をついて落ち着いたのか、ちらりと見え隠れする百紫芋の様子は余裕の表情を取り戻している。

 どんどんと壁に空いていく。

 黒豹の飛ばした、骨の穴。


 その時だった、轟音を立てて塔のしたの方から、何かが飛び出してくる。

 第一の喇叭ちゃんだ。その手には冬蜻蛉の姿が。さらに何やら雑多な物を掴んでいる。冬蜻蛉は意識が無さそうな様子。


 ──冬蜻蛉っ! よかった!


 何とか左肩の穴をふさいだ俺は再び、酸の泡を作成。


 冬蜻蛉が助け出されたことを確認したので、今度は濃度をあげることには拘らず、複数作成すると、ばら蒔くようにして次々に撃ち出す。

 百紫芋への直撃コースのものは、再びラットによって、簡単にそらされてしまう。直撃コースではない酸の泡は無視され、塔の壁に次々に穴を空けていく。百紫芋達のいる塔の最上階。その壁に。

 もともと黒豹の放つ骨の欠片でズタズタになっていた壁。さらに空いた複数の大穴。

 そこに止めとばかりに放った俺の酸の泡。


 ついに、何とか天井を支えていた壁や柱も、その耐過重の閾値を越えてしまう。


 バキッいう音。

 一度、一部が折れてしまえばあとは崩れたバランスが連鎖的に壁を破壊。天井が百紫芋の頭上へと崩れ落ちていく。


 ちらりと見える、驚愕に見開かれる百紫芋の目。

 さすがの黒豹も攻撃の手を緩める。


 最上階が、天井で押し潰される。

 崩れ落ちた天井の威力で、塔自体も崩れ始める。

 轟音を立てて、塔は上の階から順次潰れていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ