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プライムの因子

 俺は、気がつくと、見たこともない薄暗い部屋の中に立っていた。

 辺り一面、ホコリだらけだ。


 目の前には本棚のようなものがある。しかし、中身は全て朽ち果てたのか形あるものは見てとれない。

 左を向くと、多分ベッドの残骸らしきぼろぼろの木と布。


 そのまま後ろを振り向くと、骸骨と目が合う。


「おわっ!」


 思わず飛び下がり、ホッパーソードを構える。

 ホコリが舞う。


「……モンスターじゃ、ない?」


 俺は目をしばしばさせながら、慎重に観察する。


 大きな黒檀らしき机があり、骸骨は机の奥の椅子に、もたれかかるように、その亡骸を預けている。かつては服だったらしき布を身にまとっている。

 完全に白骨化している。


 辺りを見回す。他に目ぼしい物もなく、危険な予兆も感じられない。


 ゆっくりと骸骨へと近づいていく。

 Gの革靴の動きに合わせて、床にたまったホコリが舞い上がる。


 咳き込むと隙ができるため、二の腕部分の服で口許を覆いホコリを防ぎながら、黒檀らしき机を回り込む。


 近くで見ても、やはりただの骸骨のようだ。


(形を維持しているからてっきり、スケルトン系のモンスターかと思ったよ。びっくりさせやがって。しかし、どうやって形を維持しているんだろ? 何か特別な魔法かスキルか?)


 俺は触れないように細心の注意を払いつつ、骨の連結部分を観察する。


(やっぱり浮いてる。でも、崩れないように固定されてるっぽい。触れると何か罠があるかもしれないから、深入りはやめておくか。うん、これは?)


 俺は机の上に、一冊の本が乗っているのに気がつく。


 一見、ただの本だ。何かの皮のカバーがされていて、表紙は見えない。普通の本に見えるのだが、何故か抗えない魅力を感じる。


 俺は気がつくとその本を手に取っていた。


 本を開こうとするが、固くて開かない。


「なんだこれ、作り物か?」


 思わず呟きが漏れる。


 そっと皮の表紙を撫でると、何かうっすらと刻印がされているのが触った感じでわかる。

 刻印に添って指を滑らす。


(何かのマークか?)


 最後まで指を滑らせた時だった、急激なイドの減少を感じる。

 気分が一気に悪くなる。


(ヤバい! 罠か! イドを吸っているのは……この本か?!)


 俺はとっさに本を捨てようとするが、まるで手に張り付いたかのように離れない。

 渾身の力を込めて引き剥がそうとするも、全く離れない本。


 目眩が襲う。

 思わず片膝をつく。

 その拍子に本が机にぶつかる。あれほど強固に張り付いていたのが嘘のように手から離れ、床に落ちる本。


 そのまま崩れ落ちる俺。

 その横には、開いた状態で鎮座する本。


 俺はイドの急激な減少による精神的苦痛と戦いながら、その場でうずくまり続ける。

 どれ程時間がたったか、少しは精神を苛む苦痛がましになった。

 ゆっくりと体を起こす。


 開いた状態の本が目にはいる。


 そこに書かれていた文字を目が自然に追ってしまう。



『ここに至るに能うプライムの因子を持つ者へ告げる。

 ダンジョンはそなたを逃がさぬであろう。

 なぜなれば、我がそうであったからである。

 こことは異なるもう1つの世界。ダンジョンの生まれしその世界の因子を宿されてしまったその身をやがて呪うことになろう。


 扉には気を付けよ。植物性の強きダンジョンの特性の中で』


 そこで、開いたページに書かれた文字は終わっていた。

《用語説明》


「′」:プライム。約物の一つで、数学的には類似しているもの。もしくは補集合を表す。

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