動物園の門
「人間、そこ、立ち止まる」と、三対の牙を持つゾウ。
俺は相手がしゃべる事、そしていきなり襲ってこず、声をかけてきた事を念頭に、言われたまま立ち止まる。
「「何か用ですか?」」と今度は双頭のキリン。こちらは二つの頭で同時にしゃべるせいか、声がハモって聞こえる。
「俺は朽木竜胆っ! 冒険者だ。ここの主に話があってきた」
俺は戦闘になる可能性が高いと最初から思っていたので、強気に答える。
江奈さんに処置される前の銀斑猫の例を見ても、こちらの道理や倫理観が通じる相手とは思いがたいので。
それでも万が一戦闘を回避できたら儲け物と、会話を続ける。
「百紫芋様に?」「「ねぇ、象右頭。何か聞いてる」」「いや。左麒麟」「「私もよ」」「こいつ、殺すか」
ぺちゃぺちゃと会話をかわすゾウとキリン。なかなか雲行きは怪しい。
このまま戦闘かと身構えたながら、一応もう一声かけてみることにする。
「ここに、冬蜻蛉という名前の人間がいるはず。俺は彼女の保護者だ」
「保護者、なんだそれ」「「守護しているって事よ。私達が門を守護しているみたいに」」「そうか。それで?」「「確かに人間が一人いるわねー」」「いたか?」「「象右頭も、百紫芋様から襲わないように言われたじゃない」」「こいつ、襲わない、いい?」「「そうねー?」」
と双頭をそれぞれ左右に開くようにして、首をかしげるキリン。
俺はもしかして、このまま押しきれそうかと言葉を重ねる。
「俺はその百紫芋様がお客扱いしている冬蜻蛉の、さらに客ってことになるっ! 門を通してもらっていいか?」
「客?」「「お客様?」」と顔を見合わせるゾウとキリン。
「客、ここ、通る」「「そうね。お客様ならお通ししなくちゃ」」
と言って門の前を開けるように左右に別れるゾウとキリン。
──えっ、これで本当にいいの? ちょろくないか。
俺はそんなことを思いながらゆっくりとゾウとキリンの間に足を進める。
そして気がつく。いま左右から攻撃されるとなかなかにピンチだと。
動物園のゲートの前。冷や汗がたらりと背中を伝う。
しかし、俺の心配は杞憂だったのか。ゾウもキリンもこちらを見つめるだけで襲ってこない。
そのまま、ゲートを抜ける。ちらっと後ろを振り向く。
ゾウもキリンももう俺には興味ないと言った風に前を向き、動物園の門の守護に戻っている。
俺はこっそりと胸を撫で下ろすとゾウ達の気が変わらぬうちにと、足早にゲートを離れた。