動物園目前で
俺は銀斑猫を抱え、空を行く。
ホームセンターの燃え跡を過ぎ、かつて市街地だった荒野も眼下を過ぎる。
──こうやって改めて見ると、俺ってこの世界に来てからろくなことしてない気がしてきた。
時たま地上を漁るぷにっと達の集団を見かける。手を振ってくる彼らに手を振り返しながら飛び続ける。
先の襲撃で大きくその数を減らしてしまったが、それでもまだまだ沢山のぷにっと達が活動を続けている。
「そろそろ左に曲がるにゃ」と銀斑猫。
物思いに耽ってしまっていた俺は指示通り左方向に進路を変更する。
荒野だった元市街地は抜け、また眼下には畑と、国道らしきものが。住居らしき建物は点在する程度。国道の沿線に軽く飲食店らしきものが並ぶ。
俺たちのネカフェの周囲と似た感じの雰囲気だ。
「見えてきたにゃ」と前方の丘を指差す銀斑猫。
──あれは大きな公園のような……。いや、動物園かっ!
地方の土地が比較的安い中で作られたのだろう。空から見ても広大な敷地面積のそれは、所々に檻のようなものが見える。丘に作られた巨大な動物園だった。
「そろそろ降りた方がいいな。空を飛ぶやつもいるにゃ」と銀斑猫の忠告。
俺はずいぶんと協力的だなと、改めて江奈さんが銀斑猫に施した事の効果に感嘆しながら、言われるがままに地上へ降りる。
場所はコンビニの駐車場。このまま道をまっすぐいって、左折すると目的地の動物園だ。
空から見た限りだと、敵らしき姿は見えない。
俺がこのまま下の道を行くか、それとも飛ぶ敵とやらをかいかぐって、一気に空から強襲するか悩む。
「それじゃあ銀斑猫ちゃんは失礼するにゃ」と立ち去ろうとする猫。
「えっ、ちょっと!」思わずその背に手を伸ばすが、ひらりとかわされる。
「ちゃんとここまで案内したにゃ。後は自由に生きさせてもらうにゃ」と猫。
俺は改めて銀斑猫のイドをよく見てみる。
──蒼色のイドが同化している? えっ、どう言うこと?
ポカンとしている俺を尻目に、猫特有の身を隠すことの巧みさであっという間に姿が見えなくなる銀斑猫。
いまだに、今起きたことが受け入れられない俺。そこでようやく、気がつく。再び俺たちを裏切って、元の主に俺のことを告げに言った可能性があると。
──わからん。本当に自由を求めてどこかへ去っていったのか。それとも……。いや、今一番大事なのは、それで、俺がどうするかだ。強襲をかけるのはこれで難しくなったと考えていい。Gの革靴を取り上げて、いくら重力軽減操作を使えないとはいえ、もともとかなり素早い。俺が急いでも、応戦準備はじきに整ってしまうだろう。それなら……
俺は持ってきていた装備品を取り出した。この前、鳩から現れた新装備を。