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火の消えたように

 もう、あれから三日。

 この三日で産み出しまくったぷにっと達が、ネカフェから市街地への道筋をくまなく探し続けた。

 瓦礫をどけ、土を掘り起こし。

 しかし、いまだに手がかりの一つどころか、何も見つけるには至っていない。


 俺はふらふらになりながらネカフェに帰ってくる。

 挨拶もそこそこに、自分のブースへ潜り込む。

 今は江奈さんや猫林檎と顔を会わせるのも辛い。


 ネカフェに戻ってくる度に、目の当たりにする、表情。

 特に子供達の期待に満ちた眼差しが、さっと失望に変わるのだ。


 冬蜻蛉が見つかった。

 冬蜻蛉は元気にしていた。

 冬蜻蛉が帰ってきた。


 そういった知らせを待ちわびている子供達。

 猫林檎が言い聞かせているのだろう。子供達からはそのままの質問をしては来ない。

 しかし、俺がネカフェに帰って来た瞬間、こちらに向けられる目には、如実に朗報を待ち望む期待が宿っているのだ。


 俺がそれをプレッシャーに感じているのが伝わってしまっているのだろう。最近では江奈さん、それに猫林檎にまで気を使わせてしまっている。


 ブースの中で、リクライニングチェアに沈みこむ俺。

 ネカフェの低めの天井。剥き出しのダクトをぼうっと眺め続ける。


 ひたひたとした足音が近づいてくる。


 ──軽めの足音。足音を消す訓練を本格的に受けたわけでもないのに、それなりのレベルで実現させている所に、才能を感じさせるな。


 こんこん。

 扉をノックする音がブースに響く。


 ──子供に無様な顔を見せられんな。


 俺は一度気を引き締め、笑顔を作る。ブースの中に固定された小さな鏡で、作り笑顔が出来ているのを確認。

 扉を開ける。


「やあ、猫林檎。どうした?」


 俺の様子をじっと眺める猫林檎。


「ううん、何でもねえです。アニキ、これ。めしっす」


 と言ってトレイを差し出してくる猫林檎。


「……ありがとう、猫林檎」


「いえいえ、なんでもねえっすよ……。今日はな、魚の缶詰を利用した特製品っす。それじゃあ、オラはこれで」と、猫林檎は挨拶もそろそろに自分のブースへもとっていく。


 色々と聴きたい質問を猫林檎が沢山抱えているのがその仕草で俺ですらわかってしまう。しかし、そのまま立ち去る猫林檎。


 俺は遠ざかる足音を聞きながら、黙々と目の前の食事を口に運ぶ。

 味わうというよりはただ作業のように。

 食べ終わると、いっそう身にのし掛かってくる疲労。

 寝仕度もそこそこに、リクライニングチェアに身を委ね、うつらうつらとしていたその時だった。


 カーンカーンという高い音がネカフェに響く。


 それはぷにっと達が鳴らす音。

 警戒を促すための音。

 敵の襲来を告げる音だった。






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