火炎の時
俺は低酸素酔いで、飛行スキルの維持に失敗する。
ターバンから現出していた漆黒の翼が消える。
落下する体。迫るアスファルト。
俺は飛びそうになる意識を何とかつなぎ止め、せめてもと、体を丸める。
衝撃。
飛行していた時の速度のまま、地面を転がる。
くるくる、くるくると天地が入れ替わる。
何とか速度をおとしきり、停止。
イド生体変化でまずは肺機能の拡張を試みる。
「ごはっ。はぁはぁ」
──成功、した。前にエラ呼吸を試した経験が参考になった、な。
ついで全身の擦過傷を修復。
ふらふらしながら頭を上げた時だった。
頬に風が当たるのを感じる。背中を走る悪寒。
嫌な、風だ。
本能が告げる。この風はヤバい、と。
低酸素のためにいったん下火になっていたメタンハイドレートの炎が、そこかしこで再び燃え盛り始める。
落下の衝撃で破砕したメタンハイドレートの氷が辺り一面にあるのだ。
そして、風により周囲から流れ込み始めた新鮮な空気。芳醇な酸素。
大量の熱が生む、上昇気流。
俺は本能の告げる危機のままに、装備を変える。
──ぷにっと注入っ! 連続発動だっ!
俺の真下で次々と生まれるぷにっと達。その質量分、大地に穿たれる穴。穴の底を掘り下げるようにして、深く深く。
俺は、ぷにっとを産み出し続けた代わりに生じた下方向への穴へ潜り込む。
そこへ、俺の上に覆い被さるように、生まれたばかりのぷにっと達がのし掛かってくる。
その時だった。
爆音。
閃光。
そして、地上に満ちた炎。
メタンガスの、炎。
酸素の急激な流入によって、一気に燃え上がっていく。
それはまさにガス爆発。市街地が吹き飛ぶ。。
更地になった大地。
次に生じるのは、火炎旋風。
急激な熱量の増加による上昇気流と、止まることを知らないメタンハイドレートの氷の雨が、平らになった大地に火炎地獄を呼び起こす。
その正体は、炎を纏った竜巻。無数の渦巻く風の流れに、メタンハイドレートの炎が柱のように吸い込まれ、まとわりつき、辺り一面を薙ぎ払って行く。
俺の背に乗って庇ってくれていたぷにっと達が、次々と火炎旋風で吹き上げられ、その身を燃え上がらせながら彼方へと巻き上げられていく。
俺はホッパーソードを地面に突き立て、必死に地下で身をつなぎ止める。
いくら時間がたっただろうか。
すでに俺の背にいたぷにっと達はその姿を消し。
俺はひたすら自らの体をイド生体変化で強化し。それでも地上の高温の空気で爛れる背中を癒し続け。
気がつけば、世界に静寂が戻っていた。