空中戦
「これは、さすがにまずい、かな」俺は市街地の空を舞いながら、ツインテールウィップを振るう。
ぷにっと達の失踪の手がかりを得て、勇んでここまで来たのは良かったのたが、まさかの忘れ物。手がかりがあったとぷにっとが伝えてくれたビルは、敵の巣だった。
とっさに、ぷにっとを鞄に押し込み何とかガラスを割って外には出れたものの。取り出そうとしたホッパーソードが無かったときは本当に焦った。
特に、イド生体変化によるイド・エキスカベータが使えないのが痛い。
こうしてみると、俺の戦いって大量のイドでのごり押しばっかりだったんだな。
しかし、反省する暇もない。
ビルの外、目の前を舞う敵は一見、鳩のようなモンスター。しかし、その腹部には縦に亀裂があり、そこがくわっと開く。
今も腹部が開いた状態で突撃してくる鳩。亀裂にはウジ虫のような、ヒルのようなのが無数に蠢いている。
「きもちわるっ」俺は嫌悪感のあまり、大幅に進路変更して、鳩の突撃をかわす。あの鳩の腹の蟲がなんなのかはわからないが、血を吸われるのも寄生虫よろしく肌の下に潜り込まれるのも勘弁願いたい。いや、ぷにっと達の残骸が無いことを考えると、別の可能性もあるか。
かわしざまに振るったツインテールウィップは、またしても空振り。
直線移動が主体の俺の飛行スキル。さらには空中を三次元的に飛び回る俺と敵の相対位置を把握しきれず、俺の攻撃は空振りばかり。
──イドを節約しなきゃいけないのが辛い。しかも小さくて数の多い敵って元々苦手だし。
俺は何度も逃げようとも試みたのだ。しかし、今は攻撃に参加してこない鳩達が予備戦力よろしく俺よりさらに上空を何匹も旋回していて、逃げようとする度に波状攻撃のように突撃をかましてくる。
それに、イドの力押しで急加速してにげるわけにもいかず。イドの枯渇する未来しか想像できないので。
そんなんで、すっかり手詰まりになっていた。
──まずは一発だ。一発当ててみなきゃ話しにならない。どうやらこっちが戦う姿勢を見せている限りは、あの鳩もどきは何故か複数で襲ってこない。そこにつけこむ隙があるはず。
最大のネックになっているのは、空間把握。目まぐるし変わる相対位置を把握する力。
俺はすでに加速している意識をさらにギアをあげられないか試みる。
集中しようとした俺の顔面目掛け、鳩もどきの腹が迫る。
俺はギリギリまで引き付け、下向きへ飛行スキルで急加速。
避けきれなかった腹の蟲が一匹、こめかみを、かする。
一筋の灼熱感。
続いて血が噴出する。
とっさに、こめかみを手でおさえる。
──ごっそり皮膚が抉り取られている?! なんなんだあの蟲の攻撃は?
俺は落下していく鳩もどきを、驚愕しながら目で追う。
そう、至近距離まで引き付けたことで振るったツインテールウィップが命中したのだ。完全にまぐれの一撃。それでも当たりは当たりだ。
俺はそこで、目を疑う。
鳩もどきの落下するその先、道路に歩道橋がかかっている。
そこに、人影がある。
「冬蜻蛉、どうしてここに……」