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縦横無尽

 目の前を高速で移動している冬蜻蛉。

 軽やかな動きは、最小限の力でその肉体を移動させているのが自然と伝わってくる。


 ──才能、あるんだろうな、これ。


 冬蜻蛉は最初の失敗以降、あっという間にコツを掴んでしまったようだ。

 体勢を崩し落ちてきて、収まっていた俺の腕から抜け出すと、すぐさま自分自身に再び重力軽減操作をかけた冬蜻蛉。


 そのままその場でジャンプし始める。

 一跳びごとにその到達地点が高くなっていく。あっという間に数メートルの高さにまで到達すると、何度もその高さのジャンプを繰り返し、自分の動きを確かめている様子。


 その次に、彼女は空き地をまっすぐ走り始める。


 俺がイドを読み取る目で見守っていると、走りながら重力軽減操作を始めたのがわかった。 

 始めのうちは、まるで月を歩く宇宙飛行士のような動きをみせる。

 しかしすぐにその姿勢は前傾になり。

 さらに、スキルの発動が瞬きのように細かく繰り返されているのが、イドの流れから見える。


 そうやって、走り続けるなかで微調整されていくスキルの瞬き。

 冬蜻蛉の足の動き、腰のひねり、そして重心移動。

 それらが次々と噛み合っていくのが、手に取るようにわかる。


 ポーンポーンと跳び跳ねていたのがまるで嘘のように、彼女はあっという間に地面を這うようにして、高速で移動することに成功してしまう。


 今ではすっかり空き地を縦横無尽に飛び回り、跳ね回る冬蜻蛉。なんだかその表情も楽しそうだ。


 俺は結局、基本的に見守っていただけ、だな。


 ──イドの流れを見ると、冬蜻蛉はかなり細かく重力軽減操作のオンオフを繰り返している、みたいだ。でも結局、あのあとも試して貰ったけど自分自身以外への重力軽減操作は成功しなかった。その代わり、自分自身への重力軽減操作は俺とは比べ物にならないぞ、これ。しかも自由に軽減率を操作出来るみたいだし。


 俺は目の前で天高くまで跳躍した冬蜻蛉を仰ぎ見ながら舌を巻く。


 ──倍加スキルといい、もしかして俺の装備品のスキルって使う人間で効果に差があったりするのか?


 俺は自分の装備を改めて眺めながら、そんな疑念にかられる。

 その時だった。ズボンの裾が後ろに引っ張られるのを感じる。

 振り向くと、そこには一体のぷにっとの姿が。


「どうした? わざわざこんなとこまで」俺は目線を下げながらそのぷにっとに話しかける。


 手に持つ物を、伸ばすようにして差し出して来る、ぷにっと。その手にアスファルトで出来た犬耳のようなもの。


「っ! これ、もしかして市街地で見つけたのか?」


 問いかける俺に対し、こくこくとうなずくぷにっと。


 それは、どうやら、ようやく見つかった手がかりのようだ。失踪したぷにっと達へと至るための、それ。


「冬蜻蛉!」俺は少し離れた所でバク宙を繰り返していた冬蜻蛉に声をかける。


「なに?」俺の声に潜む緊迫感が伝わってしまったのか。すぐさまバク宙をやめてこちらへ走ってくる冬蜻蛉。


「すまないが、今日は訓練はこれで中止だ。冬蜻蛉はネカフェに戻っていてくれ」


 俺は急ぎ冬蜻蛉にお願いすると、手がかりを持つぷにっとを抱え、飛行スキルを発動した。

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