下準備
俺は江奈に、冬蜻蛉の事を相談してみた。
結果、ネカフェの外へ連れ出され、めっちゃ怒られた。
「戦いかたを教えるなんて安請け合い、何でしたの?!」
「責任、持てるの? 死ぬかもしれない。大怪我をするかもしれないのよ」
「そもそもスキルの使えない冬蜻蛉に何を教えるつもりなのよ」
その後も怒涛のように続く、江奈からのお叱り。
そんな俺の背中に突き刺さる、つぶらな瞳のぷにっと達の視線。
寝ることのないぷにっと達は夜でも外で活動しているのだ。夜な夜なネカフェの補修や物資の探索をして戻ってきたぷにっと達が、手を止め何事かとこちらを見ているのが感じられる。
散々怒られた後に、それでも江奈は最後には相談にはのってくれた。
やはり正式にガンスリンガーの訓練を受けている江奈の意見はとても参考になった。
迎えた翌朝。
いつも通りの缶詰と保存食中心の食事。最近は子供達と皆で食事が出来るように、オープン席の机を使っている。
──こうしてみると、ブース席が各個人の個室で、オープン席がダイニングみたいだよな。大きな一つの家みたいになってきたよな、このネカフェも。
すっかりネカフェ内で、活動するのが当たり前になっているぷにっと達が、皆に食事を運んでくれる。忙しなく行き交い、短いお手々を伸ばして、よいしょっとテーブルにお皿をのせてくれる。隠してはいるが、江奈さんがそんなぷにっと達の姿にメロメロなのが、俺ですらわかる。
──あの皿はこの前の百円ショップのだな。ぷにっと達、ちゃんと誰がどのお皿使うのか、わかっているんだよな。不思議。
俺は、自分が市街地の駅ビルからとってきたお皿が使われているのを眺めながら、そんなことを思っていた。
そこへ、自分のブースから出て、こちらへやってくる冬蜻蛉。
今日のジャンパー、そしてその下に着込んでいる上下ともに新品を着ている。
「あれ、重ね着してない」と思わず漏れる俺の呟き。
「おはよう、朽木。やっぱり変、かな。動きやすい方が良いかと思って」と、何故か落ち着かない様子で服を見下ろしている冬蜻蛉。
「いや、いいと思うよ。あと、おはよう」
「そう」と何故かホッとした様子。冬蜻蛉はそのまま、ぷにっとから受け取った朝食を食べ始めた。
朝食後、そわそわと落ち着かない様子で椅子に座っている冬蜻蛉。俺は江奈さんの方を向く。無言で視線だけのやり取りを江奈さんと交わし、冬蜻蛉に声をかける。
「それじゃあ、そろそろ始めようか」
「うん!」ぴょんっと跳ねるようにして冬蜻蛉は立ち上がる。待ってましたとばかりの様子に思わず苦笑が漏れる。
俺は冬蜻蛉をつれ外へ出ると、ネカフェの裏側へ。前に倍加のスキルの検証をした空き地へと、二人して歩いて向かった。