眼下のゴブリン達
飛行スキルで飛び出した俺の頬をうつ、風。先程まで抱っこしていた幼子の温もりも、その風が一瞬で吹き散らしていく。
上空で一度、滞空し、装備を変える。
眼下を見下ろすが、ゴブリン達に動きは見えない。
──ペットボトル生まれのぷにっと達の姿は見えないな。
俺は取り出した双眼鏡を使って急ぎ辺りを見回す。
──建物への火のまわりも思った程じゃないな。ゴブリン達がさっきまでは消火していたのか? だとすると、白蜘蛛を殺したことで消火作業をしていたゴブリン達の動きも止まったから煙がまわってきたってことか……
俺はそこまで考えて、あまり時間がないことを思い出す。
双眼鏡を乱暴にしまうと、ゴブリン達からみて、ホームセンターの建物とは反対側に着陸する。
そこはまだホームセンターの敷地内。床はアスファルトだ。
俺は装備したぷにぷにグローブを地面に当てる。
ぽんぽんと地面に穴をあけ、生まれてくるぷにっと達。
俺は急ぎゴブリン達へ近づくようにお願いする。
とことことその短い足を必死に動かして前進するぷにっと達。
──そろそろ時間だ。
ホームセンターを見る。
しかしちょうど反対側に来てしまったので、冬蜻蛉達の姿はゴブリン集団に遮られて見えない。
──降りる場所失敗したっ
そうこうしているうちに、先頭のぷにっとがゴブリンと接触する。
「がうっ」ぷにっとが叫びながらその短い腕を伸ばし、ゴブリンに触れる。
やはり反応がない。
そのまま次々とぷにっと達がゴブリンに触れていく。
そこかしこで響く「がうがう」という、ぷにっと達の鳴き声。
「これは一切ゴブリン達、反応してないな」俺も、呟きながら近づいていく。
いつでも振れるようにと、ホッパーソードは構えたまま。
慎重に近づく俺が当然見えているだろうに、微動だにしないゴブリン達の群れ。
数十匹はいる。
そこへ漂ってくる、肉が焦げるような異臭。
臭いのもとをたどって視線をやれば、そこには消火活動をしていたのだろうかホームセンターの壁の近くに倒れているゴブリン達。
「生きながら、燃えてる……」
ピクピクと動くそのゴブリンの体が焼け焦げ、火に包まれている。しかし、そこには一切意思の感じられない。ただただ焦げて縮んだ筋肉の反応でピクピク動いているだけのようだ。
思わず目を反らしてしまう俺。
ついに手の届くところまで来る。
俺はそっとホッパーソードの剣先で一番近くにいるゴブリンに触れる。
そこまでしても反応が無いことを確認すると、俺は一度目を瞑る。瞼の裏に浮かぶのは、この世界に来てからのこと。
生きながら無反応で燃え続けるゴブリン。
白蜘蛛のハンマーについていたスキル。
初めてあった時の冬蜻蛉の瞳の色。
そして、ネカフェで待つ江奈さん。
覚悟を決め、目を開く。
せめて苦しくないようにと、俺はホッパーソードをまっすぐ振りあげた。