ホームセンター一階
「朽木、見た目より強い……」と背後で冬蜻蛉の驚きの声。
俺は、無表情を装う。見た目、弱そうって言われてるに等しい点は華麗にスルー。大人の矜持を総動員して。
しかし、振り返りざまに作った笑顔は、少し引きつってしまった。まあ、まだまだ人間が出来ていないなと自嘲しながら、階段の上からこちらを見下ろしている子供達の顔をうかがっていく。
ゴブリンの血と溶けた肉まみれの踊り場を見下ろす子供達の顔には、不思議とショックを受けている様子は見えない。
どちらかといえば、そこにあるのは、興奮と称賛の表情。
俺は少しほっとすると共に、これまでの彼らの見てきたものを思って、哀しみがわいてくる。しかし、今はそれどころじゃないと気を引き締める。
引き続き子供らを連れ、階段を下りていく。だんだんと薄暗さが増していく階段。そして最後の踊り場を過ぎ、ついに一階フロアが見えてきた。
──見張りはいない? さっきのゴブリン達が見張りだったのかな。
俺は子供達を階段で待っていてもらうと、一階フロアへの出口すぐ横の壁に背をつける。
そっと差し出すホッパーソード。
剣先を使って一階フロアを確認する。
まず目に入るのは、遠くに見える日の光。
どうやらホームセンターからの出口のうちの1つが近くにあるようだ。
階段近くに窓がなく、周辺が薄暗いなか、その出口から差し込む光が一層目立つ。
──出口だっ! 距離は五十メートルないぐらいか。しかし、薄暗いな。商品棚が出口に向かう左側の通路に並んでいる。右側は何かのテナントか。これじゃあ物影にゴブリンがいても……。
俺は薄暗いなか、うっすらと見える店内の様子を見ながら考える。
──一気に駆け抜けるべきか、それともそっと進むべきか。さっきの戦闘音で、応援が来るかと思ったけど……
考え込んでいると、一匹のゴブリンの姿が剣先にうつる。
間の悪い事に、出口から、俺たちのいる階段の方へ向かってくる。
──あれ、もしかして大きい? ここらのボスか?
剣先という鏡越しで見ていたせいで気がつくのが遅くなってしまった。俺は急いでホッパーソードを引くと、子供達に物音を立てないようにジェスチャー。
静まり返った一階フロア。と、思ったのもつかの間、ズルズルと何か引き摺る音に混じって、コツコツという靴音が、響き始める。
俺は思わず子供達を見る。しかし、誰も動いた様子はない。
──誰の靴音だっ!? あのでかいゴブリンは靴なんて、はいてなかったぞ。もしかして、他にも人がいた?
俺は危険を承知で、そっと片目だけ出るように顔をのぞかせる。
目に入ってきたのは、痩せたシルエットの人影。
どうやら商品棚の間から歩いて出てきたようだ。
薄暗いなか、はっきりと見えないが、手にした柄の長いハンマーを引き摺っている。
人影が、出口からの光の中に入る。
ひどい猫背に、高い身長。手足も細長い。
パッと見た目で、蜘蛛を思わせるような男だ。
それが巨大ゴブリンの方へと向かっていく。
──あれは確か、長柄両口ハンマー? もしかしてあんな武器で戦うつもりか。無謀なっ!
俺は思わず、男に加勢しなきゃと、一階フロアへと飛び出していた。