冒険者のいない世界
「ねえ、朽木は武器はその変わったナイフだけ? 銃とかないの?」と俺の横で階段を下りながら冬蜻蛉がきいてくる。
「銃は今は持ってないな……。後はこれ?」と、俺はカニさんミトンを掲げる。
「なにそれ? それであの妖精達を殴るの?」
俺は階段の上下、特に子供達がいる上を警戒しながら、その質問に少し考えこんでしまう。
──妖精? ああ、ゴブリンの事をそう呼んでるのか。そういや装備品化したときに妖精の鍬になったっけ。
と1人納得した俺。横には、不安そうな表情の冬蜻蛉。どうやら俺の保有火力に不安がある様子。
「こうやって使うんだよ」
と、俺は階段の手すりに向かって極小の酸の泡を発射する。
じゅっと音をたて、手すりが溶ける。
「きゃっ」と言う声が、驚きのあまりか、冬蜻蛉の口から漏れる。
「あっ、ごめん。驚かすつもりじゃあなかったんだ。遠距離攻撃の手段もあるって言うのを……」と、そこまで話して気がつく。驚愕に見開かれた冬蜻蛉の眼差しに。
「冒険者って、こういう事、出来るの? 超能力? 魔法?」
まるで冒険者を初めて見たような冬蜻蛉の物言い。不思議な気分になりながら、俺は答える。
「あ、ああ。これは魔法だね。泡魔法。……もしかして、冒険者っていないの?」
答えようとする冬蜻蛉。しかし、その時だった。階下からゴブリン達が上ってくる。
踊り場の階段の曲がり角からぴょんと飛び出したゴブリンの顔。俺の背後の子供達の姿を見たのか、険しくなる。
俺は階段を飛び降りるようにして、そのゴブリンに襲いかかる。
ゴブリンが手に持つ鉈を振り上げようとする。
──遅い
俺は飛びかかりざまに、逆手に構えたホッパーソードをゴブリンの顔面へ突き刺す。柄を自らの体に当てるようにして、押し込む。
そのまま後続のゴブリンごと、押し倒す。
──あと、二匹!
すでにこちらへ向かって来ているゴブリン。手の届きそうな位置まできたゴブリン達の前に、カニさんミトンで酸の盾を展開。
顔面から酸の盾に突っ込むゴブリン達。
ゴブリン二匹の顔の肉が、溶け落ちる。
ホッパーソードに刺さったゴブリンの体を踏みつけながら、重力加重操作。刺し殺したゴブリンの下敷きになったゴブリンを力任せに踏み殺し、ついでにホッパーソードを抜く。
そのままの勢いで、顔面が溶け、声すら出せずに悶え苦しむゴブリン二体に止めを刺していく。
「……凄い」背後から聞こえるのは、冬蜻蛉の感嘆の声。
俺はその時になって、ようやく子供に見せる物じゃなかったと気がついた。