ウシャ
そもそも、俺が自動車にぷにっと注入しようと思ったのは、ネカフェの前の道路がかなりの範囲で、剥げてしまったからだ。まあ、俺がアスファルトにぷにっと注入をしまくったせいなのだが。
──ちょっと調子に乗りすぎたかな。
剥げた道路を見回し、そんなことを考えながら後ろを振り向くと、ぷにっと達の犬顔が沢山。皆、思い思いにゴロゴロしている。
その様子、子犬が戯れているようで、思わずほっこりしてしまう。見知らぬ場所、見知らぬ敵。そして江奈さんのこともあり、知らず知らずの内に溜まっていたものが、ぷにっと達を眺めているとなんだか少しだけ軽くなった気がしたのだ。
そんなこんなで、その場にいたファルトに周囲の探索だけ頼むと、俺は次の目標を定めたのだ。
──よしっ。次はあの沢山停まっている自動車にしよう! 今のところ、沢山ぷにっとがいてもデメリットはなさそうだしな。
一番、近くにあった自動車。
あまり縁がなくて車種はよくわからないが、よく見る五人乗りの物だ。
「さーて、アスファルトにぷにっと注入したのと、違いはあるのかな」
俺はぷにぷにグローブを自動車の車体に当てる。ぷにっと注入し過ぎてハイになっていた俺は、ノリノリで叫ぶ。
「ぷにっと注入っ!」
もう、俺も手慣れたもので。あらかじめ反対の手で庇いつつ、顔は背けてある。
頬を押す、ぼふっという風。
それをやり過ごし、背けていた顔を戻す。
目の前に居たのは、メタリックな姿のぷにっと。それが、サイドチェストをキメキメに決めていた。
一見ぬいぐるみのようなぷにっとが、必死の胸筋アピール。そのインパクトたるや、凄まじいの一言。可愛らしさと可笑しさが相乗して押し寄せてくる。
俺は必死に吹き出すのを耐え、そのぷにっとに話しかける。
「あの、それ、キレてるね?」
ぱあっと言う音が聞こえてきそうなぐらい、そのぷにっとの表情が変わる。
ばうっばうっ言いながら、次々にポーズを見せてくれる。
「ありがとう、君の名前はウシャにしよう。ウシャは筋肉自慢なんだよね?」
両手を掲げてばうっと高らかに吠えるウシャ。
意味はわからないが、肯定だと思った俺は、自動車にぷにっと注入しながら、ウシャ達には何をしてもらうか、考える。
──力仕事がいいんだよな、多分。力仕事、力仕事か……
どんどん増えていく、自動車から生まれたぷにっと達。
均一なアスファルトから生まれたぷにっと達と違って、自動車から生まれた彼らは見た目がバラエティーに富んでいる。
あるぷにっとは、パイプが顔を這っていたり。別のぷにっとは、体にラジエーターの痕跡のようなものがあったり。
何故か自動車生まれのぷにっと達は皆、力自慢のようで。そこかしこでぷにっと同士で、力比べをしている。
とあるぷにっとが、近くの民家に近づく。
その民家はこの前のゴブリンの襲撃で壊れてしまっていて、瓦礫やら木材が散乱している。
ぷにっとが、落ちている瓦礫を持ち上げる。
それを見ていた別のぷにっとが、近づいていく。そして、まるで俺の方が力持ちだと言わんばかりに、最初のぷにっとより大きな瓦礫を持ち上げようと踏ん張る。
さらにそれを見て、別のぷにっとも。まるで群がるように瓦礫に駆け寄るぷにっと達。
──ネカフェの周り、この前の襲撃で結構な建物が全壊なんだよな……。そうだ、瓦礫を片付けつつ、使えそうな建材でネカフェの壁とかドアとかを補強をしてもらうかっ。これなら力を使うしちょうどいいや。
俺はこうして、ウシャ達にネカフェの強化をお願いすることにした。