名付け
「お手」
「ばうっ」と俺の手に前肢を載せる、アスファルト製の犬。
「おおっ、賢いね! もしかして話していること、わかるのかな」
「ばうっばうっ」とまるで返事をしているかの様子。
「君は一体なんなんだい? 本物の犬には到底見えないし」
「くぅーん?」と首をかしげる、それ。
「そうか、わからないかー。名前とかもない──みたいだね。それじゃあ、何か名前をつけてあげるよ。ないと不便だしね」
「ばうっ!」
俺は頭を悩ます。
──あ、一応確認をしておくか。
俺はステータスを開く。
──ないか。ふうっ、良かった。もしかしたらステータスの召喚の欄に何か名称が出るかと思ったけど。これ、は召喚じゃないってことだよな。いや、もうアクアみたいなのが出てくるのは勘弁してほしいから、本当に良かった。
安心した俺は、さくっと思い付きで名前をつけることにする。
「……ファルト?」
「ばうっばうっ」と特に嫌がる様子もないファルト。由来は当然、あれ。安直すぎたかと一瞬、後悔するが、他に特に思い付かず。
「そうだ、ファルト。こっちに来てくれるかな?」と、この前から気になっていた例の案件を試すことにする。
そうして向かったのは、ネカフェの裏手の荒れ地。
「自分の足先に、土をかけてくれる?」
「ばうっ」と大人しく言われた通りにするファルト。
──これは完全に意志が通じているな。
「オッケー。じゃあ、ちょっと、じっとしていてくれ」
そういうと、俺は背負っていた妖精の鍬を取り出し、振り上げる。
ファルトに当たらないように鍬を慎重に振り下ろす。
さくっ。
広がる魔法陣が、ファルトの土に覆われた足を包み込む。
……静寂が広がる。
──うーん。何も起きない、と。
俺はそれならばと、自分の足にも土をかける。この前は自制したが、こうなれば試しても良いだろう。
さくっ。
……やはり何も起きない。
「そうかそうか。動物には倍加は効かないんだろうな。草は、倍加で増えていたから対象は植物以下って所かな。うん、待てよ。とすると──ファルトは動物の括りになるって事か!? てっきりゴーレム的な物かと思っていたんだが……」と、ぶつぶつ呟く俺。ファルトがそんな俺を何故か生暖かい眼差しで眺めていた。