鍬
あの後、咄嗟に江奈さんを抱き止め、ネカフェのブース席へ運んだ。
どうやら極度の疲労状態の様子。命には別状が無さそうで、俺はほっとする。
多分、アクアの力を使った反動だろうと言う江奈さんの意見に、俺も頷きつつ、とりあえずは休んでいるように言い含める。
「ほら、これ」
前夜から使っている貸し出し用の毛布を被せてあげる。
口許まで毛布を引き上げ、上目遣いで不満げな表情の見せる江奈さん。
「ほらほら、そんな顔しないで」と笑っておく。
「──すまない」と呟く江奈さん。
「うん」俺はブースのドアを閉める。
そのままネカフェの外へ。
「さて、やることは沢山あるわ、こりゃ」と俺は指折り数えていく。
「まず、今の状態の江奈さんを連れて移動するのはリスクが高い。いつまたどうなるかわからないからな。休める場所が近くにあるとは限らないし。とすると、しばらくはこのネカフェを拠点にするしかないけど……」
と背後のネカフェを見て、さらに周囲に視線をやる。
「まずはこれ、片付けますか……」俺はカニさんミトンをはめた左手を掲げて、自分を鼓舞するかのように手をチョキチョキさせた。
──数時間後
「ふぇー。終わったー」俺は綺麗になったネカフェの周りを眺めながら、その場に座り込んで休憩する。
「ネカフェにあった掃除用品、もうダメだなこりゃ」と俺はいろんなものでぐちゃぐちゃになったモップも酸の泡で処分しておく。
「さて、次に優先順位が高い事は……。やっぱり安全の確保か。どう考えても、偵察で見つけたホームセンターがゴブリン達の拠点だよな。……潰さないと安心出来ないよな。江奈さんのためにも」
俺は大きく伸びをして立ち上がる。
「その前に、昨日手にいれた新しい装備品の確認をしとくか。もしかしたら戦力になるかもしれないしな」と、俺はネカフェの中にしまっておいた鍬を取り出してくる。
装備して、ステータスを開く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆
年齢 24
性別 男
オド 28(1UP)
イド 11(3down)
装備品
妖精の鍬 (スキル 倍加)new!
チェーンメール (スキル インビジブルハンド)
カニさんミトン (スキル開放 強制酸化 泡魔法)
黒龍のターバン (スキル 飛行)
Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)
スキル 装備品化′ 廻廊の主
召喚
魂変容率 17.7%
精神汚染率 ^D'%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「妖精の鍬、ねぇ? 何かイメージと違うと言うか……」と俺は手にした鍬を眺める。
なにせ、一見、どこにでもありそうな農作業用の鍬なのだ。木製の棒に、金属の刃がついただけのシンプルな構造。武骨と言ってもいいような外見。妖精という華奢な語感とは真逆と言っていい。
「まあ、それはいいか。さて、スキルだけど倍加、ね」
俺は最初に手にした時の事を思い返す。何となく使い方の予想がついた俺はネカフェの裏側、少し歩いたところにある空き地へ向かう。
「ここら辺でいいか」と俺は手にした妖精の鍬を空き地へと振り下ろした。




