ゴブリン
突然、焚き火を囲んでいたゴブリン達が、騒ぎだす。
地面に置いていた武器らしき物を取り上げ立ち上がるゴブリン達、その数四体。
バールに、ノコギリ、そして鍬や鎌と、まるでどこかのホームセンターから盗んできたような物ばかり。
それを手に、鼻をひくひくさせながら、ぎゃあぎゃあと会話している様子。
──臭いで、気がつかれた?
俺はとっさに自動車の陰にふせ、風向きを確認する。
──風向きは、逆、だよな。
そっと再び自動車の窓ガラス越しに覗く。
ちょうどゴブリン達が俺とは反対の方、ガソリンスタンドの向こう側へと走っていく後ろ姿が見える。
──あっちに何かあるのか? って、あれは江奈さん?!
ガソリンスタンドの向こうに広がっている草むした土地。そこをふらふらと歩いている江奈の姿が見えた。
ゴブリン達がふらふらしている江奈に向かって行く。
俺も慌てて自動車の陰から飛び出す。
──ギリギリ、届く!
俺は走りながらカニさんミトンを構える。狙うのは、前方のゴブリンの一団、その一番手前のバールを両手で抱えた個体。
カニさんミトンから発射された酸の泡が、ゴブリンへ迫る。バール持ちゴブリンがそのタイミングで、こちらを振り返る。
──気づかれたかっ?!
直撃コースだった酸の泡。しかしバールゴブリンは強引に体を捻ると、手にしたバールを盾のようにかざす。
バールの一部と、体勢が崩れたことでたまたま酸の泡の直撃コース上に来たゴブリンの右足が、泡に包まれる。
じゅっという音。
ゴブリンの右足が、膝から溶け落ちる。
ガソリンスタンドにゴブリンの声が響き渡る。しかしそれは悲鳴ではなく、雄叫び。ゴブリンは戦意に満ちた声をあげ、半分溶けたバールを投擲してくる。
まさか攻撃してくるとは思わず、一瞬反応が遅れる。しかも前傾姿勢で駆けていた俺はとっさに回避もできず、何とか手にしたホッパーソードで飛んできたバールを防ぐ。
──重いっ。あんな姿勢で投げているのに! 筋肉量がちがうのか!?
バールを何とか打ち落とした俺は、ばっと前を見る。
こちらを爛々とした瞳で見ている、右足を失い地に伏したゴブリン。
その奥、遠くに見える江奈さん。
それだけ。
「江奈さんっ!!」
俺の力の限りの大声。しかし、江奈さんは反応しない。
──仕方ない、江奈さんのことは後だ。ゴブリン三体の姿が見えない。地に伏した奴も戦意満々って顔だ。こいつら、知性がかなり高いのか。
最大限まで高まる警戒感。
その時だった、俺は無意識の反射で、大きくその場から飛び退いた。