その最期
その最期が来たことを、ワタシはわかった。
勿論コイツのだ。そしてワタシのだ。
ワタシのせいでコイツの命が短くなった事を知ったあれから、ワタシはコイツの為になるよう頑張った。
コイツは日に日にワタシを抱き締める力が弱くなっていき、もうここ一ヶ月ぐらいは手を上げることも出来なくなっていた。
それでもコイツは「ウサギさんありがとう」と言って、無理矢理にでもワタシの頭を撫でようとして頑張ってくれた。
だからワタシも頑張った。
その頑張りが無理を祟ったらしい。
ワタシも最期の一週間は動けなくなっていた。
コイツとワタシの獲物は、コイツの子を名乗る奴や、ワタシに怒鳴って来てた大きい奴が用意してくれて、コイツだけじゃなくワタシにも食べさせてくれた。
あまり食べられなかったのは、食べさせてくれていたのに、申し訳なくなった。
そんな日々を過ごして、その最期が来たのをワタシはわかった。
もうコイツもワタシも自分の力で動く事は出来ない。
それでも無理して動こうとすると、脚が痛くなる。
その痛くなるのも、今は何故だか無い。
動けない筈の体を必死に動かして、ワタシはコイツの顔の横へと移動した。
コイツの顔が見える。
コイツもワタシが近くに来たことがわかったのか、ワタシと目を合わせて笑った。
そして、コイツももう体は動かない筈なのに、ワタシを撫でてくれた。
「ウサギさん、この半年間、どうだった?」
コイツと同じじゃない事がこんなに苦しいのは、これで何度目だろう。
伝えたい。
噛んでごめんなさいと。初めて会った頃、素っ気なくしてごめんなさいと。
伝えたい。
君との生活が楽しかったと。君との生活が嬉しかったと。君との生活が心地良かったと。
伝えたい。
君と出会えて良かったと。
伝えたい。でもコイツとワタシは違うから伝えられない。それがこの上なく悲しい。
なのにコイツは笑った。笑ってこう言った。
「そっか。僕もね、ウサギさんとの半年間、本当に楽しかった。嬉しかった。実はねウサギさん?僕、ウサギさんと会う前は、余命一ヶ月とか言われてたんだよ?
でも、ウサギさんとの生活が楽しくて、最初言われてたより長く生きられたんだ。
だからウサギさん、僕と一緒に居てくれてありがとうね。
僕と出会ってくれてありがとうね。」
そう言ってコイツは目を瞑って、ワタシの頭を撫でていた手から力が抜けた。
ワタシのせいで命が短くなったと聞かされた時みたいに、ワタシの見えるものがぼやけた。
なんでぼやけたかはわからないけど、嬉しくて嬉しくて仕方がないほど満たされたのはわかった。
ワタシも、君と出会えて本当に良かった。
~fin~
あとがき
『ワタシとコイツの半年間』、読破ありがとうございます。
作者の荒木空ことATです。
この作品、『ごめんなさい』の最後辺りから、泣きながら執筆してました。
こういうのに弱くて、自分の作品なのに泣いてしまうほど、こういう切ないのはクリティカルヒットするのが私です。
この作品を書こうと思ったのは完全に気分です。
というのも、これの元になったのが私が見た夢だったりします。
えぇ、この作品を書く直前まで寝ていて、その時に見た夢の内容がこれだったりします。
勿論ですが細部は違いますし、夢ではラストまで行ってません。夢では『ごめんなさい』で終わっています。
そんな、この作品のような夢を見て思ったのです。
この夢を覚えている間に、形に残したいと。
その結果生まれたのがこの作品です。
完全に自己満足で、自分の夢の内容に、自分の作品の内容に泣いちゃうような痛い私ではありますが、残したいと思ったものは残していく、それが私が作品を書く力の源ですので、そこは生暖かい目で見過ごしていただければ幸いです。
公開はしていませんが、この作品以外にもホラーやファンタジー、恋愛ものなど、私の夢が元ネタの作品をいくつかあります。
そちらも形に出来次第公開していこうと思いますので、公開いたしましたら、是非読んでいただければ幸いです。
では読者の皆様、またお会いしましょう。BYE-BYE