ごめんなさい
アイツが帰って来たのは、空が穴の中みたいになるのが3回ぐらいあったあとの明るい時だった。
アイツの住み処の入口の方から音がしたから急いで向かうと、アイツが大きい奴らに連れられて行った時と似た状態で帰って来た。
ワタシはつい嬉しくなって、横になっているコイツの体の上に跳び乗った。
すると大きい奴らの1つが「おいウサギ!コイツに乗るな!離れろ!!」と怒鳴って来た。
コイツが連れていかれた時、ワタシに怒鳴って来た奴と同じ声だった。
ワタシが怒鳴って来た大きい奴に牙を剥いて威嚇していると、いきなり背中を撫でられた。
いきなり触れられた事に驚いたワタシだったけど、不快な気持ちにはならなかった。
それでワタシは、コイツに撫でられた事に気付いた。
すぐにワタシは威嚇するのをやめて、コイツの手に体を擦りつけた。
コイツはまだ苦しそうな顔をしてたけど、嬉しそうに「ただいま」と言った。
ただいまの意味はわからないが、コイツの声を聞けてワタシは堪らなく嬉しくなった。
ワタシはコイツの手を噛んだり舐めたり頭を擦り付けたりして、必死に帰って来たコイツに甘えた。
大きい奴らにコイツが運ばれて、コイツの寝床にコイツが着いて、空がドンドン赤くなり始めた頃に大きい奴らは帰って行った。
その内の、あのワタシに怒鳴って来た大きい奴が、「ウサギにわかるかわからないけど、しっかり説明しろよ!」とまた怒鳴っていた。
アイツは嫌いだ。すぐ怒鳴る。
そんな奴にもコイツは、「わかってるよ。それに、このウサギさんはとっても頭が良い」と言ってワタシを撫でた。
堪らなく心地良い。
ワタシはまたコイツの手を噛んだり舐めたりした。
大きい奴らが何処かへ行ってからしばらくしたあと、コイツはワタシの顔に両手を当てて、ワタシと目線を合わせた。
「ウサギさん、大切な話が有るから、聞いてね?」
意味はわからなかったけど、ワタシはコイツと目を合わせているのが嬉しくなって、コイツの手を噛もうとした。
そしたら頭を軽く叩かれた。今までにこんなことは一度もなかったから驚いた。
ワタシがコイツの顔を慌てて見ると、コイツは悲しそうな顔をしながら、ゆっくりと話し始めた。
「叩いてごめんねウサギさん。でも大切な事だから聞いて?
僕が今回、救急車に運ばれてウサギさんを置いて何処か行っちゃったのはね、理由があるんだ」
それからコイツは話し始めた。
半分も理解出来なかったけど、ワタシがコイツの手を、赤いのが出るほど噛んで、そのあと舐めたりしていたのが駄目だったというのがわかった。
それでコイツの命が短くなったというのもわかった。
コイツが、残り三ヶ月しか生きられないということも、わかってしまった。
コイツは元々体が弱く、どちらにせよあと一年も命はなかったらしい。それが、ワタシが噛んだり舐めたりしたのが原因で、短くなったらしい。
「まぁ、元々残された時間は短かったし、ウサギさんは気難しい子みたいだけど可愛いし、気にしなくて良いよ。あ、でも、一応もう、血が出るほど噛むのはやめてね?」
血というのが、コイツの手を噛んだ時に出てた赤いのだということはわかった。
コイツの命が短くなったのは、ワタシが血が出るほど噛んで舐めたということはわかった。
ワタシのせいでコイツの命が短くなったのだということは、何よりもよくわかった。
気付けばワタシは、コイツに体を擦り寄せて、見えてるものがぼやけてしまっていたけど、構わずコイツの体にワタシの体を擦りつけた。
ごめんなさい。